微かに燃えている炎はいつ消えてもおかしくない儚さはあるけれど、だからこそ元気? と投げかけて元気だよと言ってもらう。
 それは彼のためでもあり、私のためでもある。
 おもむろに上がった彼の腕が私の頭の上にのる。
 大きな手のひらが包み込むようにしてのせられ、体温から伝わる温度は先生とはまた別の温もりがあるような気がする。
 そのままガシガシと撫でられる。
「何?」
「んー上書き」
 相変わらず読めない顔でぼそっと呟いた彼に小さく「そっか」と返す。
 この体温がずっと続いてくれたらいいのに。
 ずっと、感じられたらいい。
 冷たくならないよう、温かいままで。
 そんな思いを込めて見上げれば、彼の表情に柔らかい笑みが灯る。
「ん?」
 温かいね、そう続けた私に、彼もまた温かいと続けた。
「え、待ってもうそういう関係なの?」
 振り返れば、驚いたような顔を浮かべる琴音の姿。その隣ではペアのように立っている桐原くんが眠たそうに欠伸をしている。
「ち、違うよ……⁉」
「そう、ちょっと前から」
「よ、余計なこと言わないでよ瀬名くん」
 頭にのった腕を振り払えば「暴力反対」わざとらしく払われた手を擦っている。そんなやり取りに琴音は「いいねいいね青春」などと頬を緩め満足そうに頷いていた。まるで保護者のような顔つきまでしている。
 日常は、驚くほど何も変わらなくて、でもこんな日々が宝石のようにきらきらと輝いていることに、いつか気付けなくなってしまうのかもしれない。
 当たり前のように過ごせる毎日が本当は奇跡の連続で出来ていることを、私はまたどこかで見落としていってしまうのかもしれない。
 それでも、変わらない日常を、いつだって幸せだと思えるように。
 この世界だって、この上なく幸せで出来ているんだよと瀬名くんに胸を張って言えるように、私はこの日常を大切にしていきたい。
 時には理解してもらえないこともあって、ぶつかったって意見は平行線のまま交わることがない時だってある。対立してしまう瞬間だってある。