瀬名くんがついてきてくれたように、今度は私がそうしたい。
 どこまでも、綺麗な世界を追って、光のある方へと生きていたい。
 そっと、フェンスへと歩み寄り、その向こうにいる小さな背中に手を添える。まだ震えているその背中は、温かくて、ちゃんと、ここにいる。
 空を見上げると淡い青の中の星々が頼りなく輝いていた。差し込んだ朝の光。薄明が心のうちをほのかに照らしてくれているような、そんな朝がきた。
 どれだけ暗く、辺りが見えなくなったとしても、朝は容赦なく誰の元にもやってくる。
 明るく、まるで暗闇が嘘だったかのように照らし出してくれる。
「……綺麗だね」
 そう言った私の問いかけに彼は何も言わなかった。
 ただ静かに、顔を上げ、白っぽく朧気な空を見つめていた。
 こんな空を、私はこれからも見ていきたい。瀬名くんと一緒に、こうして同じ空を見て「綺麗だね」と言いたい。
 そうしていつか「綺麗だ」と返ってきたなら、彼の闇が溶けたことになるのかもしれない。