出来るはずもなかったんだ。彼はもう、自分の人生を諦めてしまっていたんだから。
「俺は、俺の人生がもう嫌なんだ」
「こんな過去をこれからも背負っていくのは疲れた」
〝多分、俺が綿世さんだったら、すっげえ青春謳歌してるよ〟
 瀬名くんが私にそう投げかけた日があった。
 ねぇ、そういう意味で言ってたの?
 自分の人生はもう捨てたいから、だから、謳歌出来るなんて言ったの?
「楽しかったよ、文化祭。変わっていく綿世を見て、この世界も少しはマシなんだなって思った。綺麗だ、って思えた」
 友達出来るかな、そう言った私に、瀬名くんは小さく言ったよね。
『——違うから、大丈夫だよ』
 きっと、こう言ってたんじゃないかな。
『俺とは違うから、大丈夫だよ』
 そう伝えてくれてたんじゃないかな。
 空を見上げる。それでも涙はぼろぼろ零れてくる。引いてくれない想いが胸を熱くさせていく。
「ありがとな」
 そう、寂しそうに笑う彼が印象的だった。
「っ、あ……ま、」
 声が出ない。込み上げる想いが咽喉につっかえる。
 何か言わなきゃ、何か、何か、
 なのに、声が、声が出ないんだ。
 月明かりの下で、彼がきらきらと輝いて、その光景があまりにも現実離れしていて、嫌という程それが目に焼き付いていくような気がした。
 こんなとき、どんな言葉も見つからない。こんなちっぽけな頭で何を伝えられるって言うの。何も、伝えられやしない。
 助けてもらってばかりで、してもらってばかりで、まだ、まだ何も恩返しが出来ていないのに、これをどう変えたらいい。どう変えたら彼はまだここにいてくれるんだろう。何をどう伝えたら、
「ばいばい」
 ——ああ、行っちゃう。行ってしまう。なにも出来ないまま……。