「あの日、母さんに突きつけた言葉のナイフが、俺に跳ね返って今も心臓に刺さったまま」
——ああ、違った。
瀬名くんは誰よりも言葉の重みを知っていた人だった。
その痛みに耐えながら、今日までをなんとか生きてきたんだ。
私は、そんな心に気付けないで、自分ばかりが痛いと思ってしまっていた。この人は人の痛みなんて分からないんだって決めつけて、でも、そうじゃなかった。
どんな言葉よりもきつい言葉はこのことだったんだ。
家族につけてしまった傷を抱えながら、彼はどんな気持ちだっただろうか。
毎日、どんな想いで過ごしていたのだろう。
同じ暗闇にいたから、彼は私の闇に気付いてくれた。
『早く出てけ』
それは、私だけでもその闇から出そうとしてくれていた言葉だった。
「なぁ、罪を犯してない人間なんて、この世にいんのかな。誰も傷付けた事ことがない奴ってこの世にいる?」
心の闇にいるのは、私だけなんかじゃなかった。
私よりも暗く、どこまでも闇が広がる世界で、瀬名くんはずっと抜け出せないまま、取り残されてきたんだ。
残されてきたから、だから、もう全てを諦めたような顔をしていた。
死を、怖いと思えなくなるぐらいまで、追い詰められていた。
「せ……な、くん」
へらり、と彼が笑う。それを見て悟った。
ああ、消えてしまう。瀬名くんがいなくなってしまう。
そう確信した。その笑顔がもう最後なんだと思った。もう、見られないかもと思った。
ああ、どうしたらいい。
何を言っても響かない顔をしてる。もう決め込んだ顔をしてる。
——今日、人生の終わりを告げた顔をしている。
「綿世」
凛とした、静かで落ち着いた声だった。
「俺、苦しいんだ」
抑揚のない音で、彼は吐き出すように吐露する。
「生きてて楽しいって思えなくなったのはいつからだっけって考えて、俺が生きてる意味ってあんのかなって毎日思う。母さんも多分、こんな気持ちだったんだろうなって今になって思う。毎日、夜がくるのは怖いんだよ。あの真っ暗な闇がいつも俺を連れていこうとする。無性に叫びだしたくなって、それに耐えて、そうする事で心が強くなったかって言われたら多分違う。どんどん心が擦り減ってるような気がする」
苦しみから、解放されないままは、どれだけ辛い事なんだろう。
「でもタイムリミットを決めたら、不思議と生きてる心地がした。母さんの命日って決めてから、俺の人生は残り一年もないぐらいになって、そしたら見える景色が全部最後になった」
約束なんて、彼とは最初から出来なかった。
——ああ、違った。
瀬名くんは誰よりも言葉の重みを知っていた人だった。
その痛みに耐えながら、今日までをなんとか生きてきたんだ。
私は、そんな心に気付けないで、自分ばかりが痛いと思ってしまっていた。この人は人の痛みなんて分からないんだって決めつけて、でも、そうじゃなかった。
どんな言葉よりもきつい言葉はこのことだったんだ。
家族につけてしまった傷を抱えながら、彼はどんな気持ちだっただろうか。
毎日、どんな想いで過ごしていたのだろう。
同じ暗闇にいたから、彼は私の闇に気付いてくれた。
『早く出てけ』
それは、私だけでもその闇から出そうとしてくれていた言葉だった。
「なぁ、罪を犯してない人間なんて、この世にいんのかな。誰も傷付けた事ことがない奴ってこの世にいる?」
心の闇にいるのは、私だけなんかじゃなかった。
私よりも暗く、どこまでも闇が広がる世界で、瀬名くんはずっと抜け出せないまま、取り残されてきたんだ。
残されてきたから、だから、もう全てを諦めたような顔をしていた。
死を、怖いと思えなくなるぐらいまで、追い詰められていた。
「せ……な、くん」
へらり、と彼が笑う。それを見て悟った。
ああ、消えてしまう。瀬名くんがいなくなってしまう。
そう確信した。その笑顔がもう最後なんだと思った。もう、見られないかもと思った。
ああ、どうしたらいい。
何を言っても響かない顔をしてる。もう決め込んだ顔をしてる。
——今日、人生の終わりを告げた顔をしている。
「綿世」
凛とした、静かで落ち着いた声だった。
「俺、苦しいんだ」
抑揚のない音で、彼は吐き出すように吐露する。
「生きてて楽しいって思えなくなったのはいつからだっけって考えて、俺が生きてる意味ってあんのかなって毎日思う。母さんも多分、こんな気持ちだったんだろうなって今になって思う。毎日、夜がくるのは怖いんだよ。あの真っ暗な闇がいつも俺を連れていこうとする。無性に叫びだしたくなって、それに耐えて、そうする事で心が強くなったかって言われたら多分違う。どんどん心が擦り減ってるような気がする」
苦しみから、解放されないままは、どれだけ辛い事なんだろう。
「でもタイムリミットを決めたら、不思議と生きてる心地がした。母さんの命日って決めてから、俺の人生は残り一年もないぐらいになって、そしたら見える景色が全部最後になった」
約束なんて、彼とは最初から出来なかった。