〝主人公が下した最後の選択は、きっと俺には出来ない〟
〝人生はやり直せない。だから人生をリセットしたいと願うと思う〟
〝——最後にこれが読めてよかった”
 風が勢いよく髪を攫っていく。焦燥感に駆られ、後ろを振り返る。
 窓の外で風が冬の匂いを連れてやってくる。その先で、その向こうで、
「せ……な、くんっ」
 屋上で、彼の姿を見つけた。
 フェンスを越えた、彼の姿を。
 足がもつれそうになって何度も転びそうになった。
 屋上までの階段が果てしなく長いような気がして、真っ直ぐに伸びる廊下がどこまでも永遠と続いているように思えて、
「はぁ……っ、はっ」
 息が苦しい。体が酸素を求める。
 それでも、それでも、前に進むしかなかった。前に、ただ、前に、彼のいる場所へと向かうしかなかった。
 屋上へと続く扉は、少し隙間を残して開いていた。その先に行くのが怖くて、一度止まりかけた足を、また一歩動かした。
 ざっと風が吹く。もう秋じゃない。すぐそこに迫ってる冬が、静かに息を顰めるようにしてタイミングを見計らっている。
 緑のフェンスの向こうに立つ彼の背中に、私は、なにも、なにも言えなかった。
 言葉が咽喉の奥に引っ込んでしまって、声が出なくて、息だけが口から吐いて吸ってを繰り返して。
 ごくりと飲んだ唾の音だけが聞こえる。しんと冷える静かな夜だった。
 ゆらり、と目の前の背中が揺れる。白いシャツ越しに彼が振り返る。
「よ」
 なんてことはない、いつも通りの顔で、そう言った。
 驚きもしないで、困ったりもしないで、焦ったりもしないで、ただただ、いつも通りに薄笑いを浮かべている。
「……っ」
 なにも、出てこないんだ、本当に。
 これ以上、体が動かないんだ、もう。
 だって瀬名くん、いつものように笑ってるから。恐怖心なんかないように、じゃあまた明日って笑って落ちてしまいそうだから。
 怖くて、震えそうで、足が竦んでしまいそうで。