なんで、どうして。
 瀬名くんがここにいるかもしれない、なんて思うのだろう。
 真っ直ぐに行けばいいのに、ただ走って追いかければいいだけの話なのに。
 なんで足は、この足は、学校へと吸い寄せられてしまうんだろう。
 教えて、誰か、お願いだから、教えて。
 昇降口へと向かい、乱暴にローファーを脱ぎ捨てる。
 真っ暗になった校舎では、未だ片付けきれていないと思われる文化祭の残りがあちらこちらで見えた。
 ダンボール、布、ベニヤ板、装飾品が廊下の隅で積み上げられているのを横目に、つるつると滑りそうな廊下を走った。
 こんな所にいるはずなんてないのに。ここにいるわけがないのに。
そうわかっている。わかっているのに、体がここを求めている。
 月明かりが廊下を照らすように差し込んでいる。しんと静まり返った校舎内ではもう生徒の姿を見ることがない。ほとんど帰ってしまったのか。
 自分の荒い息遣いだけがやけに響いて聞こえる。
 なんだか、ものすごく怖くて、どうしようもなく不安で、一人では潰れてしまいそうな、そんな昏い夜。
 文化祭のチラシが壁に貼られっぱなしだ。まだ、楽しかった時間から一時間も経っていないのに。まだこれだけ名残惜しく残っているのに。
 瀬名くん、瀬名くん、瀬名くん——。
 ねぇ、私だけだったの?
 私だけが、あの闇のような底から抜け出せていたの?
 もう、見てないって、そう言っていたのは、嘘だったの?
 ねぇ、瀬名くん。
 瀬名くんがわからないよ。読めないよ。本当に、なに考えてるのかわからないよ。
 なんで私ここにいるのかな。なんで私、真っ直ぐ行かなかったのかな。なんで、学校なんかに、
 ぴたり、と。チラシに挟まれた白い紙に目が止まった。
 黒い文字で、びっしりと書かれたそれは、私も良く知っているもの。
 また新しく貼られていた、あの、読書感想文。
 綺麗な字と、綺麗な世界観。
 自然と目が文字を追う。どこまでも澄んだような想いは、まるで私が書く感想文とはかけ離れ過ぎている。
〝生きる意味があるとするなら、きっとこんな世界なんだと思う〟