あの画面に書かれていた文字が頭から離れない。離れていかない。
 なんで、あれって──。
 瀬名くんの笑顔が、忘れられなかった。
 いつも通り笑っていたのに、どうしてだか、あの笑顔が気になって仕方がなかった——いや、違う。胸騒ぎがして仕方がなかった。
 どうして、あの記事の画面が映っていたの。あれを見るのは、死にたくなったときだけで、なのに直前まで瀬名くんはあの画面を見ていたというのだろうか。
 しかも、文字が変わっていた。線路じゃなくて、学校になっていた。
 なんで、なんで、なんで。
 なんてことはない。じゃあね、と言い合って別れただけ。今頃瀬名くんもこの星を見て、綺麗だなとか思っている。きっとそう。
 そう、なのに、どうしても心がざわざわして落ち着こうとしない。どうして、なんで、そう自分に問いかけて、縛られるように考えるのに、答えなんて一つも出ない。
 鉛のように重くなっていく足を無理に前へと進めていく。
 大丈夫、気のせいだ。根拠のない不安に駆られているのは、きっと文化祭が終わったという消失感からきているものなのだから。
 だから、そう、根拠がないんだから、大丈夫、大丈——なわけがない。
 根拠がないから大丈夫なんかじゃないんだ。根拠もないのに不安になって、どうしてだか瀬名くんがいなくなってしまうような気がして、なんでこんなことを思うのか自分でもわからないのに、無性に今、瀬名くんに会わないといけない気がしている。
 二十七日。それは今日だ。今日のことを指している。
 あれは何かの間違いだと言ってほしかった。あの画面に映ってたのは、たまたま映っただけだと。
 でも、でも——。
「……っ」
 ぐっと踵に力をこめて来た道へと戻る。とぼとぼ、と前へと進んでいく足が次第に早くなっているのが自分でもわかった。
気付けば走って、走って、とにかく走って、時間を少しでも縮めるように向かっている。
 このまま真っ直ぐ行けばいい。反対方向へと歩いて行った瀬名くんの背中を追いかけて、いつも通りなんてことはない顔で「え、なにしてんだよ」と言ってもらうだけでいい。
 そしたら、ああ、よかった気のせいだって思って帰れるから。
私、なんか変だったみたいって笑って、そう思えるから。
 校門前を横切ろうとした時、きぃっと、校舎から聞こえた軋んだ音に目を奪われた。
 屋上の、扉が開く音。
 視線を向けたって、あの寂しそうな佇まいは変わらなくて、そんな音が聞こえたからって気にする必要はないかもしれないのに。