「なんでもないから!」
 琴音の声を遮るように割って入れば瀬名くんが「気になるじゃん」と口を尖らす。
「いいの! ほら、グラウンド行こうよ」
「却下」
 私の提案をきっぱり否定したのは、またしてもどこからともなく現れた桐原くんだった。
「すっげえ人だから。今出ても人混みに潰される」
「潰されるって」
 呆れたように笑う琴音に「じゃあ」と切り出したのは瀬名くん。
「いつものとこ行きますか」
「いつものとこ?」
 首を傾げた私を見ては、人差し指を作り上を指す。
「そりゃあ、もちろん——」

 古びた扉を開ければ、心地いい風が肌をなでた。
 瀬名くんが〝いつもの〟と言った場所は、屋上だった。
「ば、ばれない……? まだみんないるし」
「綿世はほんとビビリだな」
 こんな先生に見つかったら怒られるようなことを人生で一度もしてきていないんだもの。
 そんな私とは対照的に「大丈夫だろ」とぶっきらぼうに言い放つ桐原くん。琴音だって「みんなで怒られようよ」と開き直っている。仮にも学級委員じゃないかと言ってやりたくなるのを寸止めでやめる。
 いつの間にかライブは終わり、今は生徒による漫才が披露されている。どっと笑いが起きるほどに盛り上がりを見せているらしい。
 そんな後夜祭の中、私たちは屋上にいるのだから、なんだか心がそわそわしてしまう。
「綿世」
 瀬名くんはフェンスに凭れながら私を呼ぶ。
「本物、はっきり見えるよ」
 そう言って空を見上げた彼につられて私も同じように眺める。
 濃紺の空に浮かぶ白い無数の星。その輝きはきらきらと輝きを増している。
「ほんとだ」
 夕方に見るよりも、やっぱり星は夜に見た方が格段と綺麗に見える。