「ちょっと飲み物買ってくるよ」
 でもやっぱり恥ずかしくなって、勢いのままプラネタリウムを飛び出す。
 あのまま一緒にいたら、自分でも思ってないことを言ってしまいそうな気がして、それは絶対に後悔するだろうからと、やめた。
 廊下を出て、そういえば瀬名くんの好きな飲み物って知らないなと思い出していると──。
「それ、綿世三春のこと?」
 窓の外から聞こえた声に、どきりとした。
 この声、知ってる。
 ──莉子だ。
「はあ?」
「だから、綿世三春の話かって聞いてんの」
 莉子と、それから渡辺さんたちグループ。どうして莉子は一人なんだろう。
 そっと窓から下をのぞき込めば、中庭には睨み合ったグループがいた。
「え、知り合い? あの出しゃばり野郎と」
 渡辺さんの馬鹿にするような、鼻で笑ったような口調が鼓膜に届く。
「知り合いっていうか同じクラスだし。ムカつきすぎてビンタしたったわ」
「へえ、ビンタ」
「あんたら他校でしょ?」
「他校だけど、同中」
「ああ、じゃあデビューしたの知らない? なんか文化祭で覚醒したの」
 げらげらと、その笑いが心臓を抉っていく。
「すごいよ、なんか急にしゃしゃるし。校内でも人気の男子と仲良くなりはじめるし、なんかすごいうざいんだよね」
「だからビンタ?」
「まあ一喝しといてやろうって──」
 バシン、と。乾いた音が響く。
「じゃあ、私からも一喝するわ」
「っ、なにそれ」
「なんかムカつくんだよね。三春の悪口言われるの」
 莉子が渡辺さんにビンタをお見舞いする。その勢いがあまりにも強くて、渡辺さんが頬をおさえている。
「なにすんのよ!」
「──莉子!」