「余裕で遅刻だけど、まあどうでもなるだろ」
 なんてことはない顔で笑う瀬名くんが、ほんとうに頼もしくて、なんかわからないけど涙が出そうだった。
 きっと、時間があったら、心に余裕があったら、私号泣してたと思う。
 でも今は、その感情に浸ってる場合じゃない。これを届けないと、私たちのクラスの出し物は完成しない。
「きたきた! 三春!」
「ごめ、ん。遅くなって……これ」
 カーテンを渡すときには、瀬名くんと手が離れていた。
 名残惜しいなんて、そう思ってしまうのは、きっと残された瀬名くんの熱が温かかったから。

「ねえ、見てよ。もう既に大盛況だよ」
 琴音の指さす方へと視線を流せば、壁に沿うようにして並ぶ生徒の姿。目的は我がクラス自慢のプラネタリウムだった。
 ずらりと並ぶ模擬店にはあちらこちらで看板が華を飾るようにして存在感を放つ。
 文化祭が始まったんだ。
「今んとこダントツみたいだよ。客入りしてんの」
「すごいよね。みんなプラネタリウム興味あるんだ」
「そりゃああるよ。なんたって、三春が頑張ったんだから」
「それを言うなら琴音もでしょ」
 互いが、みんなが、協力して作り上げたもの。
 それが形となり、人に触れてもらえるのはうれしい。
「でもさ、桐原くんとまわらなくてよかったの?」
「えっ? な、なんで」
「まわるんだと思ってたから」
「まわらないよ!」
「あ、桐原くん」
「──⁉」
「嘘だけど」
「……やめてよ」
「でもないけど」
 前方斜め前に現れた桐原くんを見つければ、琴音はわかりやすい動揺を見せる。そんな彼女に呆れたような顔をして歩いてくる桐原くん。