琴音もそれ以上追及することはなかった。言いたいことを飲み込んでくれたのはありがたかった。
 渡辺さんたちを除くクラスメイトが、一丸となって修復作業に追われていた。
 きっと準備していた期間よりも、今はまとまっている気がする。
〝今〟を、見つめられている気がする。
 この一瞬を、切り取れたらいいのにと、そう思うほど、強い光景で。
「こら、ぼさっとすんな」
 瀬名くんが段ボールで私の頭をこずく。
 瀬名くんも桐原くんも、黙々とプラネタリウムを直していた。
 悔しい。悔しい。悔しい。
 だから諦めたくない。間に合わなかったね、なんて言って終わらせたくない。
 今、私ができる全力の力を注ぎたい。
「カーテン、だめみたい。予備がないんだって」
 切り裂かれた黒いカーテンは、映画研究会から借りたものだった。
 そこに掛け合ってくれたクラスメイトが残念そうに肩を下げる。
「……私、ある」
「三春?」
「カーテン、あるよ。黒いの。それ、使おうよ」
 半額で買ったあのカーテン。死ぬために買ったあのカーテン。
 あれはずっと、私の部屋の隅に置かれている。
「ほんとう? じゃあ綿世さんに頼んでいい?」
「……もちろん」
 何度もうなずいて「琴音に作業手伝えなくてごめんね」と伝えると「そんなのいい」
と力強く送り出してくれた。
 廊下を走りながら、もつれそうになる足を必死で動かす。
 歩いて二十分。走れば十五分。でも自転車があればもっと早く着くのに──。
「綿世!」
 高い音のブレーキ音と、それに跨る瀬名くんの姿を校門前で見つけたとき、ハッとした。
「乗れ」
「え、でも」
「あのカーテンなんだろ?」
 胸が、ぎゅっと絞られるみたいだった。
 なんのために存在しているのか、その意味を私と瀬名くんだけが知っている。