青く朧気な春に幸あれ

「羨ましかったことの腹いせだよね、あれって」
 自分でも、ここまで冷たい声が出せるのか驚いた。
 今は彼女たちを軽蔑している。怖いと思うことがない。
「琴音のことが羨ましかったんでしょ」
「はあ?」
「だから壊したかった。琴音が楽しそうにしてたこと全部、壊してスッキリさせたかった」
 私と一緒にいるのが気に入らなかったはずだ。
 自分たちが仲間外れにしたくせに、琴音は孤独にならなかった。
 桐原くんや瀬名くんだっていた。その光景が羨ましかったんだ、この人たちは。
「なにそれ、羨ましいとか、そんなんで私らが動いたと思ってるとか笑える」
「でも壊した。みんなで作り上げたものを、あなたたちは壊した。そうすることでリセットした」
 そうすれば、ぜんぶゼロになるから。何もかもなかったことになるから。
「それ、最低だよ。馬鹿げてるよ」
 勢いよく頬にビンタが飛んできて、顔がぐんと左に向く。
 ああ、図星なんだなって、そう思う顔だった。
 じっと睨む。最低だよ、と今度は心の中で呟く。
 人の想いを踏みにじる人間は最低だ。それを自分の心境だけで都合よく壊していいものじゃない。
「関わらなくていい。あれは私たちが修復する」
 そう言うと、渡辺さんは、まるで自分が被害者みたいな顔をする。
「関わるわけないし。修復もしない」
「それでいいよ」
 それだけ言い終わると、私は教室へと戻った。
 もうあれ以上、時間を割くことはしたくない。
 自分が今、しないといけないことはひとつだけ。
「ごめん、抜けて。私、どこやったらいい?」
 教室に戻れば、琴音が心配そうに私を見て、それから驚いたような顔をした。
「三春……その、ほっぺ」
「ああ、大丈夫。それより時間がないよ。完成させよ」
 本当に平気だった。だから笑みだって浮かべることが出来た。
「……うん、じゃあ三春は段ボールに黒いテープをどんどん貼って」