「なんで……」
 いよいよ文化祭当日。
 学校に着いた私を、血相変えて探していたのは琴音だった。「やばいことになってる」と連れて行かれた教室では、昨日まできちんと形になっていた段ボールがバラバラに散らばっていた。
 プラネタリウムが壊されたんだと、そう気付いたのはそれから数秒後だった。
「最悪だよ、こんなことするの」
 琴音が、ひとつひとつその破片を拾っていく。小さな背中は震えていた。
 一生懸命作ってきたものが、たった一晩で壊されるという現実。
 時間も、想いも、ぜんぶ、無駄にさせられたような気がして、そのままへたり込んでしまいそうになる。
「ねえ、これって渡辺さんたちじゃないの?」
 クラスメイトの一人が、ぽつりと呟く。
 思い当たる人物というのは、ここにいる全員が一緒らしい。
 最後まで手伝わなかったグループ。ずっと、私たちのことを馬鹿にしていた顔。
 ふっと、怒りが頂点に達しそうになって、それを必死に抑える。
「ほら、カーテンまで切られてる。暖簾替わりのやつ」
 教室の扉前後を黒いカーテンで覆っていた。
 それが今ではナイフで刻まれたようにボロボロにさせられている。
 怒りが、収まらない。たぶんもう、限界だ。
「……琴音、渡辺さんの番号、教えてくれないかな」
 それはもう、無意識の領域だった。
 振り向いた琴音の目が大きく見開かれている。
「三春……それって」
「ごめん、教えてほしい」

 今まで、こんなに怒ったことはないかもしれない。
 彼女たちを目の前にしても、正直全く動じなかった。
「え、それって私たちがやったって言いたいの?」
 文化祭がもう始まる。校舎は忙しなく、人の動きも激しい中で、階段の踊り場を占領している私たち。
「やってないって言うの?」
「やってないよ」
 ねえ、と友人たちと目を合わせるその瞳に、悪意がないなんてありえなかった。
 馬鹿にしてる。どこまでも私を、あの出し物を、馬鹿にしてることが許せない。