瀬名冬也(せなとうや)
 一言で彼を表すなら〝よくわからない人〟だった。
友達と輪になって話をしていても、時折一人だけどこか違う世界にいるような顔をしていた。それでも会話は成立しているし、それなりに友達の数も多いように見えて、人付き合いは上手い方だったのだと思う。
 顔がそこそこ良く、女子からも〝気になる人は?〟といった類の質問によく名前が挙がっていた。
 やさしい……のかどうかは不明だけれど、皆口を揃えて「ちょっと変わってるとこがいい」と言っていたのを思い出す。
 きっとミステリアスとでも言いたかったのだろう。その言葉の方が彼にはしっくりくるような気がした。
 男子特有の馬鹿騒ぎをするわけでもなく、一歩引いて全体を見ているような印象。
 目立った発言をすることもなければ、特別何かが秀でていたわけでもなかった。
 ただ、彼が纏っている独特な雰囲気が、人を惹きつけていたのだと思う。
 だからこそ、彼と付き合ってるんじゃないかと噂になった時は酷く焦った。
そこには色々な条件が重なって、言いたいことも各方面にあったのに、何も言えなかった。
 恋とか、そんなものはよくわからない。
 周りが恋に頬を染める中、私は一人その場限りの笑みを作っていた。
 笑ってることしか出来なくて、周りはそんなのお構い無しで自分の色恋事情を口にしていって。
〝好きとかよくわからないんだよね〟
 そんな発言すら許されていないような雰囲気だった。
 皆、恋をしていて当然だと言わんばかりの顔をしていた。
 初恋すらまだな私にとって、中学時代のあの思い出は恋愛に良いイメージを持てなくなった要因の一つにもなった。
 あのとき、瀬名くんがどう思っていたのかなんて知らないし、今更知ろうとも思わない。とにかく、あのときのようなことが二度と起こらないよう静かに、目立たないように過ごしていくしかない。
 委員に選ばれて、その相手があの瀬名くんだったのは驚きだけれど、だからと言って私達に何か関係があるわけじゃない。
 やっぱり、予定はこのままでいいかもしれない。