「声も小さいし」
「……ごめん」
「いや、別にいいと思うけど」
いいなら……いいなら放っておいてくれればいいのに。
そんな悪態は心の中で小さくついてみる。実際には言えない。そんな度胸がない。
「ねぇ、一個聞いていい?」
このタイミングで続いたのは、
「俺ら、〝まだ〟付き合ってる?」
どきっと。胸の軋む音が鈍く聞こえる。思い出される中学時代の記憶が、押し寄せる波のように降りかかってくる。
「……いや」
「そ」
噂が、——あのときの噂が、じりじりと浮き出てくる。
『瀬名と綿世って付き合ってるらしいぞ』
クラスメイトの男子が突然そんなことを言い出して、周りにいた友達に騒ぎ立てられて、そのうちの一人が瀬名くんのことが好きで、何故だか距離を取られて、ハブられて。
付き合ってなんかない。そもそも瀬名くんと喋った事実すらなかった。なのに、そんな噂が流れて。
嫌な、苦い、記憶。
人から避けられると、人との付き合いが急激に下手になっていく。
人の顔色ばかり伺って、心が開けなくなって、卑屈になっていて、そうなる発端だった、あの出来事。
消したいとさえ思っていたそれは、当時、当人同士での話し合いは一切なかった。瀬名くんが直接私に何か言ってくる訳ではなかったし、周りも時間が経つにつれて忘れていった。
私の心にだけ、小さくも深い傷跡を残して。
本当はどうだったか、真意を助かめる術もなくて、どうしたらいいかもわからなく、ただひっそりと過ごしていった中学時代。大切な友達もいなくなってしまったあの日々は、出来れば思い出したくはなかった。
「気まずい?」
そんな彼と、こうして目を合わせて話すなんて、あの出来事に触れるなんて、委員に選ばれるなんて。
「いや……瀬名くんこそ」
「なんで?」
「私とで気まずいんじゃないかなって」
「まあ、お互い様じゃない?」
ぐさっと。刺されたような感覚。
瀬名くんも気まずいと感じているらしい。それを隠すつもりもないみたいに話されるから、こっちがどう返したらいいかわからなくなる。顔が俯いていく。
「ほら、出るなら出て。チャイム鳴るよ」
「あ、……うん」
また同じ返し。瀬名くんが何を考えているかもわからないし、私も、返しのボキャブラリーのなさに嫌になる。全部が、嫌になってしまう。
「……ごめん」
「いや、別にいいと思うけど」
いいなら……いいなら放っておいてくれればいいのに。
そんな悪態は心の中で小さくついてみる。実際には言えない。そんな度胸がない。
「ねぇ、一個聞いていい?」
このタイミングで続いたのは、
「俺ら、〝まだ〟付き合ってる?」
どきっと。胸の軋む音が鈍く聞こえる。思い出される中学時代の記憶が、押し寄せる波のように降りかかってくる。
「……いや」
「そ」
噂が、——あのときの噂が、じりじりと浮き出てくる。
『瀬名と綿世って付き合ってるらしいぞ』
クラスメイトの男子が突然そんなことを言い出して、周りにいた友達に騒ぎ立てられて、そのうちの一人が瀬名くんのことが好きで、何故だか距離を取られて、ハブられて。
付き合ってなんかない。そもそも瀬名くんと喋った事実すらなかった。なのに、そんな噂が流れて。
嫌な、苦い、記憶。
人から避けられると、人との付き合いが急激に下手になっていく。
人の顔色ばかり伺って、心が開けなくなって、卑屈になっていて、そうなる発端だった、あの出来事。
消したいとさえ思っていたそれは、当時、当人同士での話し合いは一切なかった。瀬名くんが直接私に何か言ってくる訳ではなかったし、周りも時間が経つにつれて忘れていった。
私の心にだけ、小さくも深い傷跡を残して。
本当はどうだったか、真意を助かめる術もなくて、どうしたらいいかもわからなく、ただひっそりと過ごしていった中学時代。大切な友達もいなくなってしまったあの日々は、出来れば思い出したくはなかった。
「気まずい?」
そんな彼と、こうして目を合わせて話すなんて、あの出来事に触れるなんて、委員に選ばれるなんて。
「いや……瀬名くんこそ」
「なんで?」
「私とで気まずいんじゃないかなって」
「まあ、お互い様じゃない?」
ぐさっと。刺されたような感覚。
瀬名くんも気まずいと感じているらしい。それを隠すつもりもないみたいに話されるから、こっちがどう返したらいいかわからなくなる。顔が俯いていく。
「ほら、出るなら出て。チャイム鳴るよ」
「あ、……うん」
また同じ返し。瀬名くんが何を考えているかもわからないし、私も、返しのボキャブラリーのなさに嫌になる。全部が、嫌になってしまう。