「手紙、桐原くんは読んでくれてるでしょうか……?」
 その疑問を問えば、おじさんはまたしても申し訳なさそうに眉を下げる。
「……ごめんね、読むようには伝えているんだけど」
 その答えはつまり、桐原くん本人にはあの中身が届いていない、ということだ。
「そうですか……すみません。勝手なことして」
 一方的に置いていっているだけ。直接渡す勇気もなく、こうしてこそこそと置いて帰ることしか出来ない意気地なし。読んでもらえないのも当然と言えば当然なのかもしれない。
 けれどあれは、私の思いを綴ったというよりも、もっと違う存在の——。
「文化祭のことだよね?」
「えっ」
「手紙、こうして残してくれてるのも」
 琴音ちゃんから聞いてね、と続けたおじさんに、こくりと頷く。
「おじさんね、嬉しかったんだよ。龍二をこうして気にかけてくれる子達がいるってことに」
 頬を綻ばせるその横顔に、照れ隠しにも似た感情が湧いてでる。
「龍二、本当はそういうの好きだから、参加してほしいんだけどね」
 そう悲しそうに笑っては、襖に寄り添うようにして置かれている仏壇へと目を向ける。
「母さんが……あ、龍二の母親が亡くなってからは、なんだか楽しいものを遠ざけるようになっちゃって。多分、働かないとって思ってるんだと思うんだ」
 仏壇横に置かれた綺麗な花を見ては、桐原くんの抱えている責任を考えてみる。とても私では想像も出来ない苦労をしてるんじゃないだろうか。
 ふと隣を見れば、同じように仏壇へと視線を送る瀬名くんの横顔が見える。さきほどから何も喋らない彼は、何を考えているのかはわからないけれど、少なからずここにいない桐原くんのことを思っているんじゃないかと思う。
「おじさんも働ければいいんだけど、何せもうそんな元気もなくなってね。情けないよ、父親として」
 そんなことはない、と、否定出来るような存在ではなくて、ただ静かにその声を聞いていた。
「これからも龍二のこと、どこかで気にかけてやってほしいんだ。おじさん、もう長くないから」
 その切実な想いに胸が張り裂けそうで、何の根拠もなしに何度も、何度も頷いていた。