「なに?」
「……ううん、なんでもない」
聞けない。聞いてしまったら、もう戻れなくなるような気がする。
いつも通り桐原くんの自宅については、こっそり手紙を投函する。
トン、と落ちる音を聞く限り、中はどうやら空のようで、それはつまり毎日ここから手紙は抜き取られている事になる。
(読んでくれてるんだろうか……)
「よし、行こ」
と踵を返して元来た道へと戻れば、ガラガラ、とレールを滑る音が聞こえる。
「あ、ちょっと待って」
そう呼び止められ、ぴくりと肩が反応する。振り返れば、一度会ったことのある桐原くんのお父さんがやさしい顔つきでこちらを見つめている。
「良かったら、入っていてくれないか」
歩く度にきしきしと軋む木の床。下手をすると抜けてしまうんじゃないかと不安になっていれば「あ、その辺は踏まない方がいい」と笑って助言される。どうやら本当に抜けてしまうところがあるようだ。
桐原くんのお父さんの言葉に甘え、自宅に招き入れてもらった。
中は決して難しい間取りではなく、玄関から入ってすぐには広間というかリビングが広がり、ふすまを隔てるようにして向こうの部屋の隅には布団が重ねられるように畳まれていた。
テレビでしか見たことのなかったちゃぶ台を前に腰をおろし、そわそわと辺りを見渡す。
必要最低限のものしか置かれていないような、そんな印象を受ける。
「ごめんね、誘っておいて大したおもてなしも出来なくて」
そう申し訳なさそうにお茶の入ったコップをテーブルへと置いていくおじさんに、いえいえと首を横に振る。
「手紙、きっと君が置いてくれてるんじゃないかと思って」
「え……あ」
「いつも郵便受けはおじさんが見るもんだから、龍二宛に書いてくれてる手紙をね、知ってて」
「あ……そう、だったんですか」
言われてみれば桐原くん本人だけに触れる場所ではなかった。少し考えればわかるはずなのに、どうも頭からすとんと落ちていたらしい。
「……ううん、なんでもない」
聞けない。聞いてしまったら、もう戻れなくなるような気がする。
いつも通り桐原くんの自宅については、こっそり手紙を投函する。
トン、と落ちる音を聞く限り、中はどうやら空のようで、それはつまり毎日ここから手紙は抜き取られている事になる。
(読んでくれてるんだろうか……)
「よし、行こ」
と踵を返して元来た道へと戻れば、ガラガラ、とレールを滑る音が聞こえる。
「あ、ちょっと待って」
そう呼び止められ、ぴくりと肩が反応する。振り返れば、一度会ったことのある桐原くんのお父さんがやさしい顔つきでこちらを見つめている。
「良かったら、入っていてくれないか」
歩く度にきしきしと軋む木の床。下手をすると抜けてしまうんじゃないかと不安になっていれば「あ、その辺は踏まない方がいい」と笑って助言される。どうやら本当に抜けてしまうところがあるようだ。
桐原くんのお父さんの言葉に甘え、自宅に招き入れてもらった。
中は決して難しい間取りではなく、玄関から入ってすぐには広間というかリビングが広がり、ふすまを隔てるようにして向こうの部屋の隅には布団が重ねられるように畳まれていた。
テレビでしか見たことのなかったちゃぶ台を前に腰をおろし、そわそわと辺りを見渡す。
必要最低限のものしか置かれていないような、そんな印象を受ける。
「ごめんね、誘っておいて大したおもてなしも出来なくて」
そう申し訳なさそうにお茶の入ったコップをテーブルへと置いていくおじさんに、いえいえと首を横に振る。
「手紙、きっと君が置いてくれてるんじゃないかと思って」
「え……あ」
「いつも郵便受けはおじさんが見るもんだから、龍二宛に書いてくれてる手紙をね、知ってて」
「あ……そう、だったんですか」
言われてみれば桐原くん本人だけに触れる場所ではなかった。少し考えればわかるはずなのに、どうも頭からすとんと落ちていたらしい。