「……そうなんだ」
意外な答えに若干の戸惑いを見せる。たしかに好きかどうか聞いたけれど、嫌いと返ってくるとは思わなかった。
「あ、でも違うな」
「ん?」
「俺の母さんが嫌いだったんだ」
瀬名くんのお母さん。マザコン話がまたしても出てきて、本当に瀬名くんの頭はお母さん中心なんだなとある意味で感心する。
「お母さんが嫌いだったんだ?」
「そ。だから一回も行ったことないし、どんなものかも正直分からない」
「一回も?」
「うん、一回も。祭りがある日は隔離されてた」
やばいよな、と笑う彼はいつも通りで、なんてことはない冗談のように口角をあげる。
「まあ隔離っていっても、母さんとゲームしたり映画見たりして一緒に楽しんでたから、別に俺はそれでよかったんだけど──」
「……瀬名くん?」
消えていった語尾とともに、目から生気が失われたように見えた。ここではないどこかに思いを馳せるような瞳は〝いつもの〟瀬名くんではないように感じた。
「あ、いや、だから花火大会も音だけ毎年聞いてた。エア花火大会」
そう思ったけれど、彼はまたなんてことないような顔で笑みを浮かべる。「だから語れねえわ」と話した彼に、私はそれ以上お祭りの話を広げることはしなかった。
「よし、じゃあ行こう!」
「何そのピンポンダッシュの要領は」
「いや、だって現行犯で捕まったら」
「何してる気分なの、それ」
くすくすと笑う瀬名くんを横目にその場からいち早く去るように離れる。
桐原くんの自宅のポストに一枚の手紙を投函し〝どうか読んでもらえますように〟とだけ祈りをこめた。
正直、顔を見て直接話せるだけの勇気はない。
だから、こうしてこそこそと手紙を入れることしか出来ないけれど、何もしないよりかはマシだと、そう思いながら来た道を戻る。
「なんか今の綿世さんストーカーみたいだよね」
「ス、ストーカー?!」
なんとも物騒なワードに目を見開くものの、当の本人は「うんストーカー」と面白そうに何度も繰り返す。
「……じゃあ、ついてこなくても」
自分からついてきたくせにと、じとりとした目で睨むものの、
「いいじゃん、青春っぽくて」
そう目を細めて笑っていた。
それからも毎日、桐原くんの自宅に手紙を届ける日常を送った。
桐原くんは相変わらず登校してくれないのでたしかかめようがないけれど、読んでいてくれたらと思うしかない。
香川さんも、桐原くんに説得を試みているようだけれど、相変わらず会ってももらえないと嘆いていた。
桐原くんの自宅に通い詰めて一週間。
「綿世さんって健気だよね」
毎日私の隣に立っては、手紙を見届ける役を勝手に務める彼が感心そうに言う。
「……そういう瀬名くんも、一緒だと思う」
「俺が健気?」
「健気……ではないけど」
そんな可愛らしい言葉ではない。
もっとこう、悪趣味というか、からかうためだけに使われる野心というか執念というか……健気でもなんでもないな。
次第に、あの写真の存在も薄れかけていた。
嘘だったんじゃないか。私の見間違えだったんじゃないか。
でも、フォルダに入ってる写真は、何度見たって瀬名くんの死亡記事だ。
「ねえ、瀬名くん」
どうして、あんな記事持ってるの?
意外な答えに若干の戸惑いを見せる。たしかに好きかどうか聞いたけれど、嫌いと返ってくるとは思わなかった。
「あ、でも違うな」
「ん?」
「俺の母さんが嫌いだったんだ」
瀬名くんのお母さん。マザコン話がまたしても出てきて、本当に瀬名くんの頭はお母さん中心なんだなとある意味で感心する。
「お母さんが嫌いだったんだ?」
「そ。だから一回も行ったことないし、どんなものかも正直分からない」
「一回も?」
「うん、一回も。祭りがある日は隔離されてた」
やばいよな、と笑う彼はいつも通りで、なんてことはない冗談のように口角をあげる。
「まあ隔離っていっても、母さんとゲームしたり映画見たりして一緒に楽しんでたから、別に俺はそれでよかったんだけど──」
「……瀬名くん?」
消えていった語尾とともに、目から生気が失われたように見えた。ここではないどこかに思いを馳せるような瞳は〝いつもの〟瀬名くんではないように感じた。
「あ、いや、だから花火大会も音だけ毎年聞いてた。エア花火大会」
そう思ったけれど、彼はまたなんてことないような顔で笑みを浮かべる。「だから語れねえわ」と話した彼に、私はそれ以上お祭りの話を広げることはしなかった。
「よし、じゃあ行こう!」
「何そのピンポンダッシュの要領は」
「いや、だって現行犯で捕まったら」
「何してる気分なの、それ」
くすくすと笑う瀬名くんを横目にその場からいち早く去るように離れる。
桐原くんの自宅のポストに一枚の手紙を投函し〝どうか読んでもらえますように〟とだけ祈りをこめた。
正直、顔を見て直接話せるだけの勇気はない。
だから、こうしてこそこそと手紙を入れることしか出来ないけれど、何もしないよりかはマシだと、そう思いながら来た道を戻る。
「なんか今の綿世さんストーカーみたいだよね」
「ス、ストーカー?!」
なんとも物騒なワードに目を見開くものの、当の本人は「うんストーカー」と面白そうに何度も繰り返す。
「……じゃあ、ついてこなくても」
自分からついてきたくせにと、じとりとした目で睨むものの、
「いいじゃん、青春っぽくて」
そう目を細めて笑っていた。
それからも毎日、桐原くんの自宅に手紙を届ける日常を送った。
桐原くんは相変わらず登校してくれないのでたしかかめようがないけれど、読んでいてくれたらと思うしかない。
香川さんも、桐原くんに説得を試みているようだけれど、相変わらず会ってももらえないと嘆いていた。
桐原くんの自宅に通い詰めて一週間。
「綿世さんって健気だよね」
毎日私の隣に立っては、手紙を見届ける役を勝手に務める彼が感心そうに言う。
「……そういう瀬名くんも、一緒だと思う」
「俺が健気?」
「健気……ではないけど」
そんな可愛らしい言葉ではない。
もっとこう、悪趣味というか、からかうためだけに使われる野心というか執念というか……健気でもなんでもないな。
次第に、あの写真の存在も薄れかけていた。
嘘だったんじゃないか。私の見間違えだったんじゃないか。
でも、フォルダに入ってる写真は、何度見たって瀬名くんの死亡記事だ。
「ねえ、瀬名くん」
どうして、あんな記事持ってるの?