「これ、いつまで続けんの?」
 ずっと黙ってきた瀬名くんが、呆れたように口を開く。
「お前ら、自分のことなんだと思ってんの? 何様なわけ? 人を笑うことだけしか出来ない能無しなの?」
 鋭く、棘だけを含んだ物言いに、クラスメイトたちの目の色が変わる。
「他人事みたいな顔して、全部人任せにして、決まらないからって誰かにそれを押し付けて。いつまで外野でいんの? いつまで自分達は観客席にいると思ってんの?」
 絶え間なく続いた投げかけの言葉に、やさしさなんて微塵もない。
 誰かにじゃない。ここにいる全員に容赦なくぶつけられた彼の言葉。
 それから彼はおもむろに教卓下にある名簿を取り出しては上から名前を呼んでいく。
「相沢、今井、遠藤、香川——……」
 一人づつ、名前をなぞるように声に出していく。
「ここにいるってことは、お前ら当事者だろ。自分は関係ないなら、ここに名前なんてないんじゃないの?」
 それはきっと、彼なりに意識を持たせるためだったんだと思う。自分は関係ないじゃない、関係あるからここにいるという存在定義。
「周りに合わせて楽な方ばっか逃げてんじゃねえよ」
 痛いくらい、彼の言葉は真っ直ぐだった。歪みのない、強い言葉。
「じゃあ瀬名は候補あんのかよ! お前だって今まで何も喋ってこなかったくせに! 候補の一つぐらい出せよ」
 メイド喫茶ばかりあげていた遠島くんが声を荒げる。そんな彼に瀬名くんは顔色を変えることなく、後ろを振り向き黒板下にある白いチョークを手にとる。
 カツカツとチョークの音だけが響く。まっさらだった黒板が、ずらりと白い文字で埋められていく。
 端から脱出ゲーム、アート展示、タピオカ、ミニゲーム、謎解き、プラネタリウム。
 次々と並べられていく候補。
 一度もこの話し合いで使われることのなかった黒板には、多種多様なものが並べられ、その全てを瀬名くん一人が書き上げていった。
「いろいろ考えたけど、まあこのクラスなら、俺はどれでも出来ると思ってる」
 考えていた。死にたいとか考えていなかった私とは違って、瀬名くんはずっと考えていた。
「謎解きとかは前園とか仙波がミステリー同好会入ってるから得意そうだし、タピオカはインスタ映えとかしそうなの小鳥遊とか相沢とかあの辺のインフルエンサーの得意分野だし」
「ちょ、あの辺とかやめてよ」
 照れ隠しをするように小鳥遊さんが笑うと、周りもどっと和やかな空気に変わっていく。