放課後、お決まりの視聴覚室コースで私は白紙のプリントと相変わらず睨めっこをしていた。
 出し物希望票。その欄はこの三週間一度も埋まることはなかった。そして今日も。埋めることが出来ないままこの教室を出ていかなければならない。ここに集まる意味もなんだかないような気がしていた。
 他のクラスは喫茶店、写真館、駄菓子屋、など続々決まっていってる中で、私達のクラスだけが何も決まっていない現状を突きつけられる。
「せ、瀬名くん」
「んー」
 今日も今日とて画面から目を離さない彼に焦りをぶつける。
「本当にどうにかした方がいいかもしれないよ……?」
「どうにかって?」
「どうにかは……わからないけど……」
 ただ不安を募らせるだけで解決策は何もない。
 次でラスト。もう再来週からは出し物の準備に取り掛からなければならない。スケジュール的にはもうある程度固めていなければならなかったのだ。
 それなのに何も決まっていない。黒板に何か書かれることは一度もなかった。そんなのはきっと私達のクラスだけだ。
 それなのに瀬名くんは私とは違って焦ったりなんかしてないような顔で画面を見つめている。こんな時でさえスマホを触っている。
「私達委員だし……もっとちゃんとしないと」
「ちゃんとねぇ」
「し、真剣に考えてくれるの?」
 さっきから適当なことばかりしか並べない。
 人がこんなにも真剣なのに、それを一緒になって考えてくれようとはしない。
 どうしようと一緒に焦ってくれるだけでいいのに。瀬名くんだって他人事みたいな顔をして、全然輪の中に入ってこようとしない。話し合いの時だって、黙ってみているだけ。進行しようとはしないんだ。
「他のクラスはもう決まってるよ? 私達だけだよ、こんな風に決まってないの」
 がやがや、と賑わう視聴覚室でここだけがピリついた空気が漂う——いや、違う、そうさせてるのは私だけだ。瀬名くんはいつも通り、変わらない。
「決めないと、早く。候補だけでも」
「本当に綿世さんって、周りと一緒じゃないと気が済まないよね」
「……え」
 乾いた笑みが、べったりと張り付いた顔だった。
「変わらないよね、そういうとこ」
「そういうとこって……」
「中学の時だって、あのグループに合わせて〝一緒〟になろうとして、変に背伸びして失敗してんじゃん」
「っ、」
 なに、それ。
「周りがこうだからとか、いい加減そういうのやめたら?」
「……周りに合わせるって、普通でしょ?」
 黙って聞いてるかと思えば、急にいつもと同じような顔で平然と棘を吐き出す。
 言葉の重みを知らないみたいに、それで傷付く人がいるって知らないような顔で、こうして人が背負ってる傷を抉ってくる。