「……ごめんね、また空気悪くしちゃって」
桐原くんに会いに行った時みたいに、ぎこちなく笑う。私が苦手な、彼女の違和感のある笑み。きっとこれは、私が浮かべるものと一緒なんだろうなと思う。だから苦手だと思ってしまうんだ。
「桐原の家もね、あれから行ってはみるんだけど、もう顔すら合わせてもらえなくて……もう嫌になっちゃうね、ほんと」
彼女にかける言葉なんて、見つからなかった。彼女の口角は微かに震えていた。
「……また、こうなっちゃったな」
ぎこちなさに悲しさが曇る。
「私ね、中学の時、今みたいになったことあるんだよね」
へへ、力なく笑う彼女に言葉を失う。
「……結構ひどくて、悪口とかすごかったし、物隠されるとかしょっちゅうだったし、かなりのいじめられっ子だった」
あの、人気者の香川さんのイメージが、少しずつ崩れていく。
「順番だったんだよね。ああいうのってさ、標的いなくなるまで続くから……元々標的にされてた子が転校して、それで私になって」
傷口が、抉られていく。
「私の場合は中二から卒業まで続いて……まぁそこで結構メンタル鍛えられたから今は大丈夫だよ」
心配しないで、と、慣れっこだから、と、無理して笑顔を作る彼女は何かに必死に耐えているような顔だった。
……そんなわけ、ない。
傷付けられることに慣れるわけがない。
鍛えられるはずがないんだ。こういうのは。そんなの、私が一番よく知っている。
「中学が散々だったから、高校デビューしようと思って。仲の良かった子たちとは違う高校選んでここに入って。入学前は散々調べたよ、人気者の秘訣みたいなの」
香川さんの、誰も知らない努力。傷付けられないために培った、時間と労力。
「……結構頑張ったんだけどね。話し方とか、見た目とか、それっぽく見えるように調べ尽くして」
人気者として皆に囲まれていた彼女は、自然とそうなったんじゃない。そうなれるように努力をした結果だったんだ。
「でも所詮は作り物だから、剝がれちゃうね、簡単に」
だめだね、と苦しそうに、泣いてしまいそうな顔は、あのいつもの彼女ではなかった。人気者として笑う彼女じゃなくて、本当の、弱い、彼女だった。
「……私ね、綿世さんにこうやって声をかけてもらう資格もないんだ」
「え……」
「変だなって思ってたでしょ。私が綿世さんに話しかけるの」
カラオケに行こうと、いつの日か誘ってくれた彼女を思い出す。
「ほんとうはね、こうなった時の逃げ道を作っておきたかったんだ。中学の時、孤立してたから、一人はもうなりたくなかったから、だから、いろんな子に声をかけて、いざとなった時にはそこに逃げ込めるようにしてたの」
最低でしょ、と、続けられた言葉に私は力なく首を振る。
桐原くんに会いに行った時みたいに、ぎこちなく笑う。私が苦手な、彼女の違和感のある笑み。きっとこれは、私が浮かべるものと一緒なんだろうなと思う。だから苦手だと思ってしまうんだ。
「桐原の家もね、あれから行ってはみるんだけど、もう顔すら合わせてもらえなくて……もう嫌になっちゃうね、ほんと」
彼女にかける言葉なんて、見つからなかった。彼女の口角は微かに震えていた。
「……また、こうなっちゃったな」
ぎこちなさに悲しさが曇る。
「私ね、中学の時、今みたいになったことあるんだよね」
へへ、力なく笑う彼女に言葉を失う。
「……結構ひどくて、悪口とかすごかったし、物隠されるとかしょっちゅうだったし、かなりのいじめられっ子だった」
あの、人気者の香川さんのイメージが、少しずつ崩れていく。
「順番だったんだよね。ああいうのってさ、標的いなくなるまで続くから……元々標的にされてた子が転校して、それで私になって」
傷口が、抉られていく。
「私の場合は中二から卒業まで続いて……まぁそこで結構メンタル鍛えられたから今は大丈夫だよ」
心配しないで、と、慣れっこだから、と、無理して笑顔を作る彼女は何かに必死に耐えているような顔だった。
……そんなわけ、ない。
傷付けられることに慣れるわけがない。
鍛えられるはずがないんだ。こういうのは。そんなの、私が一番よく知っている。
「中学が散々だったから、高校デビューしようと思って。仲の良かった子たちとは違う高校選んでここに入って。入学前は散々調べたよ、人気者の秘訣みたいなの」
香川さんの、誰も知らない努力。傷付けられないために培った、時間と労力。
「……結構頑張ったんだけどね。話し方とか、見た目とか、それっぽく見えるように調べ尽くして」
人気者として皆に囲まれていた彼女は、自然とそうなったんじゃない。そうなれるように努力をした結果だったんだ。
「でも所詮は作り物だから、剝がれちゃうね、簡単に」
だめだね、と苦しそうに、泣いてしまいそうな顔は、あのいつもの彼女ではなかった。人気者として笑う彼女じゃなくて、本当の、弱い、彼女だった。
「……私ね、綿世さんにこうやって声をかけてもらう資格もないんだ」
「え……」
「変だなって思ってたでしょ。私が綿世さんに話しかけるの」
カラオケに行こうと、いつの日か誘ってくれた彼女を思い出す。
「ほんとうはね、こうなった時の逃げ道を作っておきたかったんだ。中学の時、孤立してたから、一人はもうなりたくなかったから、だから、いろんな子に声をかけて、いざとなった時にはそこに逃げ込めるようにしてたの」
最低でしょ、と、続けられた言葉に私は力なく首を振る。