「え……」
引きつった笑みを浮かべた香川さんは見るからに困惑していた。
「協力ってさ、白けるからそれ、ね?」
隣にいた同じグループの添島さんに同意を求めるかのように投げれば、彼女もまたポニーテールを揺らしながら嘲笑う。
「そうそう、適当でいいじゃん。なに真剣になってんの」
うける、と。二人はニタニタした顔で馬鹿にした。真剣になる姿勢がまるでおかしいかのように囃し立て香川さんを追い詰めていく。
「そういうの笑えるから」「琴音ってたまにそういうとこあるよね」「変に熱くなっちゃうとこ」
〝そういうの〟──馬鹿にするときの濁す言葉。でも馬鹿にしたくてもニュアンスでしか捉えられていない馬鹿さ加減。こういうのを見ると、心底辟易して、世界に絶望する。
環境が変わっても、同じようなことは起きる。
嫌なことはたくさん待ってる。
「あー……そっか、ごめんごめん」
香川さんの傷付いて笑う横顔は、じんわりと消えていった。
まずかった、とそう思っているような顔で、でもだれも、香川さんのフォローに入ることはなくて、なにもなかったかのように別の話の入り口を探す。
声をあげたところで、なにも変わらない。香川さんがやったって、こうなるだけ。
よかったと、安堵してる私は最低だ。ターゲットにならなくてよかった、なんて思ってる。
話し合いが終わると、いつも集まるグループに香川さんは向かわなかった。それを見たとき、中学の自分と重なって見えたような気がした。
こんなときほど、声を掛けてもらえないと、自分から行けなくなる。「さっきはごめん」って言ってくれれば、それで解決する。また元に戻れるのに。
でも、グループ全員がまるで除け者のように扱うと、本人は空気を読んで近付けなくなる。笑えなくなる。
渡辺さんと添島さんを筆頭に、他のグループのメンバーも香川さんを見てはこそこそと話をしていた。その目はもう、友達をみるような目ではなかった。
「……香川さん」
月曜日のホームルームの次は移動教室なので、生徒はばらばらと教科書を持って出ていく。そのタイミングを見て、私はようやく彼女に話しかけることが出来た。
机の中からノートを出していた彼女は、ぱっと顔をあげ「あ……」と何かを察したような顔つきになる。
引きつった笑みを浮かべた香川さんは見るからに困惑していた。
「協力ってさ、白けるからそれ、ね?」
隣にいた同じグループの添島さんに同意を求めるかのように投げれば、彼女もまたポニーテールを揺らしながら嘲笑う。
「そうそう、適当でいいじゃん。なに真剣になってんの」
うける、と。二人はニタニタした顔で馬鹿にした。真剣になる姿勢がまるでおかしいかのように囃し立て香川さんを追い詰めていく。
「そういうの笑えるから」「琴音ってたまにそういうとこあるよね」「変に熱くなっちゃうとこ」
〝そういうの〟──馬鹿にするときの濁す言葉。でも馬鹿にしたくてもニュアンスでしか捉えられていない馬鹿さ加減。こういうのを見ると、心底辟易して、世界に絶望する。
環境が変わっても、同じようなことは起きる。
嫌なことはたくさん待ってる。
「あー……そっか、ごめんごめん」
香川さんの傷付いて笑う横顔は、じんわりと消えていった。
まずかった、とそう思っているような顔で、でもだれも、香川さんのフォローに入ることはなくて、なにもなかったかのように別の話の入り口を探す。
声をあげたところで、なにも変わらない。香川さんがやったって、こうなるだけ。
よかったと、安堵してる私は最低だ。ターゲットにならなくてよかった、なんて思ってる。
話し合いが終わると、いつも集まるグループに香川さんは向かわなかった。それを見たとき、中学の自分と重なって見えたような気がした。
こんなときほど、声を掛けてもらえないと、自分から行けなくなる。「さっきはごめん」って言ってくれれば、それで解決する。また元に戻れるのに。
でも、グループ全員がまるで除け者のように扱うと、本人は空気を読んで近付けなくなる。笑えなくなる。
渡辺さんと添島さんを筆頭に、他のグループのメンバーも香川さんを見てはこそこそと話をしていた。その目はもう、友達をみるような目ではなかった。
「……香川さん」
月曜日のホームルームの次は移動教室なので、生徒はばらばらと教科書を持って出ていく。そのタイミングを見て、私はようやく彼女に話しかけることが出来た。
机の中からノートを出していた彼女は、ぱっと顔をあげ「あ……」と何かを察したような顔つきになる。