高校に上がり、中学にはなかった文化祭に心を躍らせた一年の秋。
 模擬店を出店出来るのは二年生だけだと知り、先輩達が教室や廊下を飾っていく姿が羨ましくて、眩しく見えた。
 一年ではまず文化祭がどういうものかを見学。三年にあがると、受験や就職の活動で忙しくなるため、二年生だけが出店を許される。
 気の緩みやすい学年だとも言われているけれど、そんな時だからこそ心から行事が楽しめるようにというのがこの学校の風習。
 だから他の高校よりも文化祭は力を入れるからか、準備は二学期に入ってすぐ始められる。
「まさか、綿世さんが選ばれるなんてね」
 クラスの学級委員、香川さんは授業が終わるや否や席へと駆けつける。
「あ……うん、ほんとうに」
 咄嗟に繕った笑みは、どうも上手く作れている気がしない。
 どう笑っていたっけ。こんな時、どんな言葉を返せば正解なのかわからない。ぐるぐると、下手くそな笑みの下でぎこちなさを隠すことだけ考えていた。
「この一か月、毎週ってちょっと大変だよね」
 準備期間は前半後半と分けられている。
前半の一か月は模擬店決め。後半は模擬店創作。特に模擬店決めに一か月時間をかけるのは、この学校ならではだと思う。
 そして彼女が懸念したように、この一か月、毎週月曜日のホームルームは委員が教壇に立ち、生徒の意見を取り入れて模擬店を決めることになっていた。
 それはつまり、私と瀬名くんに、このクラスの青春がかかっているといっても過言ではない。
 死ねなくなったと、そう思った。
「多数決でもいいのにね。一回でパパっと決めちゃってさ」
「……うん、その方が楽、かな」
「変わってるよね、この学校」
 クラスの団結力を高めるために、じっくりと準備期間に時間をかける。よくあるお化け屋敷やカフェなどを挙げ多数決で決めるのではなく、意味のあるものを形にして、その集大成として出店をする。それがこの学校のやり方。
 そんな責任重大なポジションに、私は何故だか選ばれてしまった。
 来週から、私はあの場所に立たなければならない。言葉を発さないといけない。
今日で終わりだと思えていたから、学校にも来れたのに。
憂鬱な月曜日の朝が、私にとって更に苦痛の時間へと変わってしまった。
「上手く決まるといいけどね」
「あ……そうだね」
 もう、一対一での関わり方すら億劫になってしまった今、なんとか言葉を紡いでいくのに必死。こんな私がクラスメイトの前に立ってまとめていくなんてできっこないのに。