頼りなさそうに見えるのは、人柄ではない。腕の細さとか、顔のやつれ具合とか、そんなところ。元気そうに見えないのは、きっと多分、
「あ! ことちゃんだぁ!」
「せっちゃん、久しぶり」
 まるで本当の妹を可愛がるみたいな手つきで頭を撫でる香川さんは、普段学校では見ないようなやさしい顔つきをしている。
「なにしてんの」
 ぴくりと身体が強張る。
 振り返れば、少し離れたところで、怪訝そうに顔を歪める桐原くんの姿。どうやら本当に彼の家だったらしい。
「今ね、にーにと会ったから一緒に帰ってきたんだ」
「そうなんだ。あ、ねぇせっちゃん、ちょっとお兄ちゃん貸してくれるかな」
 つまりこの子は桐原くんの妹。あの、桐原くんの。
「うん、いいよ」
 なんの躊躇いもなく頷いたせっちゃんのランドセルが大きく弾んだ。黄色い帽子がトレードマークのように主張している。ピカピカの一年生、けれど背負われているランドセルは何年も使い込んだような年期の入ったものに感じられる。
 それを黙って見ていると、ふと彼女と目が合う。
「こんにちは!」
 人を疑うことを知らない純粋な目が笑いかける。
「あ……、こ、こんにちは」
 小学生相手に「こんにちは」すらまともに言えない。きょどってしまい、なんとか絞り出すようにするしかない。そんな私とは反対に「こんにちは」とスムーズに返したのが瀬名くんだった。
「ねぇねぇ、ことちゃんのお友達?」
 お友達。今日はそんな言葉がよく飛び交う日だ。私にはしばらく無縁だった単語。
「そうだよ、三春ちゃんと冬也くん」
 名前を呼ばれ、どきっと胸が鳴る。さり気なく下の名前を知ってくれていた香川さんに言葉が出ない。彼女にとってなんてことはないのかもしれない。クラスメイトを下の名前で呼ぶなんて。それでも、嫌な気はしなかった。
「そっかぁ! せっちゃんね、せっちゃんだよ!」
 自己紹介をしてくれているのだろうか。まるで向日葵が咲いたような笑みにつられて頬が緩む。
「節子、ほら、皆はお話があるんだよ。おうちに入ろう」