どんな人が書いているんだろうか。こんな思考を持つ人はどうやって普段生きているんだろうか。
 この檻の中での唯一の楽しみといえばこれぐらい。読書感想文が更新されているのを見ると嬉しくなる。
「面白いよな、これ」
 ぬっと出てきた顔に思わずひぃっと小さな叫びが漏れ出る。その反応にケラケラと笑うのは我らが担任、山川先生だ。
「綿世も面白い奴だと俺は思うぞ」
「……それは捉え方によっては失言かと」
「そうなのか? いやぁ今の時期ってすぐセクハラパワハラって言われるから気を付けないとな」
 なんて言いながら笑って吹き飛ばすこの先生はどこまででも明るい。生徒からの支持も厚いので、訴えられることはないだろうなと勝手に思っていれば、
「それにしても、この匿名の読書感想文は毎回面白いのが書いてあるな」
 腕を組み、まじまじと感想文を見つめている。
「先生も読んでるんですか、これ」
「おう、楽しみにしてる」
 私と同じように、この感想文を楽しみにしている人が身近にいたらしい。
「このさ〝主人公は元気いっぱいで周りを楽しくさせるけど、それは僕のような人間からしてみれば迷惑極まりない行為です〟とかさ、観点がすごいよな。でももう一枚には〝健気で純粋な少女の心は、読む人間の心さえ浄化するパワーがあります〟とか書いてあって、本当対照的なんだよなこれ」
 楽しそうに目を細める横顔を見ていると、楽しみにしているのはどうやら嘘ではないらしいというのが伝わってくる。
「なぁ綿世」
「はい」
「委員はしんどいか」
 けらけら、と笑っていたはずなのに、その笑みを少しだけ残して話題を変えられる。あまり触れてほしくない、私の今のストレス。
「……そう、ですね。今すぐやめたいです」
「はは、そうだよなぁ」
 苦笑が滲んでいる。どこかしらで私に任せた負い目を感じているのだろうか。
「それでも俺は、綿世に任せたいと思ったんだよ」
 先生らしい口調で、どこか穏やかなトーンがふと落ちてくる。