思い出すだけでも、あれは自分に降りかかった言葉じゃなくて良かったと思ってしまう。
　彼は何度か瞬きをして、ふと顔をあげる。
「傷付かない」
「……どうして？」
「本当にきつい言葉、知ってるから」
「え……」
「それに比べたらどんな言葉もマシ」
　どんな言葉も、そう言い切った彼の瞳に嘘はないように見える。真実だけがそこにはあるような気がして「……そっか」なんて陳腐な返事しか出来なかった。
　何を言われても傷付かなくなるぐらい、瀬名くんの中で揺らぐことのない辛い言葉が存在している。
　私にだって、言われてきた言葉で傷付いてきた言葉はあるけど、全てを上回るような言葉はないかもしれない。
「まぁそう言ってみただけだけど」
「えっ」
「出た、えっ。本当に綿世さんって会話で使える返し少ないよね」
　意地の悪そうな薄笑いを浮かべるのはもはや通常運転なのだろう。じゃあ、と一言告げてはトイレへと吸い寄せられて行く。
　そう言ってみただけだけど瀬名くんは言ったけれど、あの目に嘘はなかったはずだ。
　あの瀬名くんにも、私と同じように何かに縛られているんだろうか。ちくりと痛むような過去を背負っているのだと思うと少しだけ瀬名くんの見方が変わる。
　人に関わっていなければ辛い言葉を言われないけど、反対に励ましてもらえるような言葉も言われない。
　本当に無でしかない。
そんな道を私は選んで、正解だと思いたくて、でも正しいのかどうかなんてわからないでいる。
　周りがきらきらしているのを見ると、つい目を逸らしたくなる。
　そんな輝いているものを私は知らないし、知りたくもない。
　だから一人でいい。一人が楽なんだ。
　そう聞かせるようになったのはいつからだっけ。そう思うことが、ほんとうに正解だろうか。



　第二週、月曜日。二回目の話し合いが設けられた。内容はもちろん、先週に引き続き模擬店決め。