「なんだよ。もう二人仲良くなったのか……いやぁ若いってすげぇな」
 感心したような口ぶりの山川先生は「子供ってすぐ友達になれるよな」とニカっと笑う。
「俺らもう十七なんだけど。そういう年なんだけど。子供じゃないんだけど」
 失礼極まりないといった様子で瀬名くんが反論している。
 友達、なんて響きは久しく聞いていない。そう呼べる存在はいつからいなかったのだろう。果たして中学の時に一緒にいたグループの子たちは友達ではなかったのだろうか。
 友達なんて、私には今までいたんだろうか。
 桐原のことよろしくな、と一方的なお願いを引き受けは職員室をあとにする。 
 よろしくと頼まれたところで私にはどうよろしくしたらいいのかわからない。参加してなど、とてもじゃないけど言えない。全てを敵とみなしているような目をしてる彼に、話しかけたら最後のような気もしてしまう。
「あの、瀬名くん」
「ん?」
「桐原くん、参加してくれるのかな? 私達が言ったところで」
 参加しないのは目に見えていた。
出席扱いにならないのなら学校を休むはず。だったら無駄なんじゃないか。
「参加しないだろうから言うのやめようって?」
 参加しないに決まってる、と、踏んでいた私の思考を見事に見透かされる。
「そ、うだね」
 なんだか、改めて言葉にされると心の黒いところを見られているような気がして、気まずさが滲んでくる。言うより言わない方が、傷付かない。そう見破られているような気がして、どこかに隠れてしまいたくなる。
 瀬名くんと話していると、そういう気分になる。自分の汚さが露骨に出ているような気分になるのはどうしてだろう。
「ふーん、まぁいいんじゃない?」
 それでも、彼の言葉は否定的なものではなかった。
「綿世さんがそう思うのは自由だし。言うのをやめようって言うならそうするのもありだと思う」
 歩くスピードが緩まる。上履きが擦れる音が消える。
「でも、それって逃げだよね? いつもそうやって逃げてんの?」
 ぐさり、と。抉られるような言葉が、澄んだ瞳とともにやってくる。心が、痛い。
「逃げてるって……」
「逃げでしょ。言わない方が楽、関わらない方が楽」
「っ」
「一人でいる方が、楽」
 痛い、全部が。見透かされている心に傷が増えていく。
 瀬名くんはどうしてこんな言葉を平気な顔で言えるのだろうか。人の顔色を伺わず、ずかずかと踏み荒らしていく。