「え……桐原くん……ですか」
 放課後、瀬名くんとセットで職員室に呼び出され、意外な人物の名前を担任から告げられた。
「あいつに文化祭、参加するよう言ってくれ」
 突然の名前についていけない私と「え、なんで」と疑問を浮かべた彼。反応は様々で、それを担任は見越して「お前ら委員だから」と平気な顔で返してくる。
 国語表現担当の割には、ずいぶんと言葉に責任感がない。
「文化祭は出席扱いにならねーから、多分あいつは来ないと思うんだよな」
 担任の推測はおおかた当たるだろうと思っていた。
 桐原龍二(きりはらりゅうじ)。
 ぱっと見ヤンキー。中身もヤンキー。素行もヤンキー。一言でヤンキー。
遅刻も多く、欠席も多い。一年の時は留年の二文字が突きつけられたみたいだけれど、どうにかこうにか出席日数を稼いで二年に進級。一年の時も二年の時も同じクラスだったが、彼もまた、私と同じように一人を貫いているような人だった。
 ヤンキーと呼ばれてしまう原因は、口調がきつかったり、目つきが悪かったり、怪我が絶えなかったりといった理由が色々とついているから。喧嘩もしょっちゅうで、病院送りにさせたり、自分がなったりしてるらしい。
 そんな人を文化祭に参加させろと担任は言う。それも、私たちに。
「委員だけど、先生が言えばいいじゃん」
 瀬名くんの意見に激しく同意を見せる。話しかけることすら怖いのに、文化祭に参加してとお願いするなんてもってのほか。学校に来てもほとんど寝ていて他者との交流を持たない。この前の文化祭の話し合いだって興味なさそうに欠伸をしていた。
「俺が言うのは簡単だけど、それじゃあ意味がない」
「なんで」
「文化祭っていうのはな、一丸となって作るんだよ。簡単に言うとチームワークだな」
 チームワーク。なんとも自分とは程遠い響きだ。
「ふーん、まあ、おっけー」
 無理だと思っていた私とは違い、隣の彼はそれを適当に受け入れた。
「えっ……ちょ」
「なに? 綿世さんは不満?」
「不満っていうか……」
 不満という話ではない。無理なんじゃないかという話だ。人一倍文化祭に興味がなさそうな人に参加しろとは強制出来ないし、そもそも話しかけるのも難しい話。それを簡単に承諾してしまうなんて。
「なに?桐原とは文化祭参加したくないの? うっわ、ひど」
「そっ、そんなの思ってないから……!」
「じゃあ問題ないじゃん」
 そうあっけらかんとされてしまえば何も言えなくなる。まるで私だけおかしいみたい。でも私がおかしいの?