「んなもん、俺も持ってねえよ」
「も、持ってるよ」
「じゃあ、つければいいじゃん。その力」
「え……」
「持ってないならつければ? 俺が持ってるって言うんだったら盗めばいい」
「そんな簡単に……」
「簡単じゃないからって諦めんの? だっせ」
「そんな言い方……!」
 かっとなった。感情が荒れた。彼と目が合うと、ふっと笑う。
「なんだ、出来んじゃん、そういう顔も」
 試すような双眸が印象的だった。そこに悪意など宿っていないことぐらいすぐに分かって、荒れた感情はすぅーっと沈んでいく。
「……なんで、瀬名くんにそこまで言われないと」
「つまんなそうだから、人生」
 つまらない、自分で言うのと、他人から言われるのでは言葉の威力が桁外れにズレがある。思わず、ぐっと押し黙れば彼はまた笑う。
「多分、俺が綿世さんだったら、すっげえ青春謳歌してるよ」
「……どうして?」
「未来があるから」
 未来なんて、私にはない。
ほんとうは先週が命日だったのに。死のうと思ってたのに。
なのにこうして選ばれて、瀬名くんと一緒にいる。
「そんなの、わからないじゃん」
瀬名くんだって、その横に座ってる男の子だって、そのまた隣に座ってる女の子だって、未来が必ずあるとは限らない。
「わかるよ、だれにでもあるんだから」
「……だとしたら、瀬名くんもあるんじゃないの?」
 か細く吐息混じりに出たそれに、彼はまたふっと笑う。「そうだね」と目を細め、天井を仰いでいた。
 ——どうしても、苦手だった。その笑顔が。



「綿世さん」
 登校してすぐ香川さんに声をかけられ足を止める。
彼女から声をかけてもらうのは、正直言って苦手で、それはきっと顔に滲んでいるのかもしれない。それをいつも隠すみたいに下手くそな笑みを浮かべる。