「え……」
 だからわからなかった。何に対してよかったと言われているのか。この流れで何一つよかったことなんてなかったんだから。
「むかつくだろうけど、そういう人間といたって多分ろくなことにならなかっただろうし。あいつら、結局最後は分離してたじゃん」
 たしかに、卒業するころには、その三人もバラバラになっていた。互いの悪口を別の友人と罵り合い、最悪の空気を持ち越したまま別れた。
「人生に必要ねえじゃん。自分を信じてくれない奴らなんか」
 苦しくなるぐらい、正論を言われた気がした。必要ない、そう割り切る思考が私にはなかった。
「人間いつかは死ぬんだから。好きなように生きた方が楽だって思わねーと人生損するぞ」
 死ぬ。そのつもりで今日まで生きてきた。
 すっごく天気がいい日に、眠るように死ねたらいいと思っていた。
 でも好きなように生きられなかった。
 古傷をずっと抱えたまま、新しい環境にも馴染めなくて、声をかけてもらってもちゃんと返せなくて、結局一人になって。
「まずは、ちゃんと否定が出来るようになったら?」
「否定……」
「か弱い否定じゃなくて、自分の意思を持ったちゃんとした否定」
 ノーと言える勇気が、いつだって私にはない。莉子ちゃんに対しての否定も、思えばその場限りの取り繕った否定だった。
 切れかけそうな縁をなんとか繋げようと必死になった、か弱い否定。あの時はっきり言えてたら、顔色をうかがうような否定なんてしなければ、もう少しだけ未来は変わっていたのかもしれない。
「今日のメイド喫茶も、ちゃんと無理って言った方がいいし」
「えっ」
「あんなんだと次も標的にされるよ」
「あ、そうだよね……無理って言いたい」
 けど、あの空気の中、私が無理なんて言葉を使ったら余計に雰囲気が悪化してしまうと思う。瀬名くんだから、否定しても受け入れてもらえただけの話。
「私には力がないから」
「なんの?」
「……クラスをまとめるような力」
 それなりに人望の厚い瀬名くんとは違う。
どうして委員に選ばれたのかもわからないし、こうして彼と話してるのもわからない。いつも通り大人しく家に帰って本を読めるんだとばかり思っていた。