オルフェとエレンは現在、地下道を歩いている。国家警察に見つかり橋を全速力で渡り切った際、オルフェは建物の裏側に微かに見えるマンホールの存在に気付いた。オルフェは橋の近くにあった石材の大きな欠片を足で蹴って川に落とすと、エレンを連れて近くにあった古い木箱で蓋を隠しながら地下へと降りていった。このような経緯から、2人は現在地下道にいる。
 地下道の中はとても真っ暗だ。人間の目では全く先が見えず、限り無く闇に近い。水の滴る音が所々聞こえるだけで、後はとても静寂。普通の人間であれば、とてもじゃないが正気を保っていられない。そう思わせられる状況だ。
 しかし、オルフェやエレンにとっては、微かに存在する光の粒子のおかげで、薄暗い道へと姿を変えていった。それでも暗い場所にいることに変わりはない。2人は慎重になるべく足音を立てず先を進んでいく。
 2人の間に会話は無い。会話が無くとも微かに見える光の道筋だけが頼りという共通認識。オルフェとエレンも特に考えるまでもなかった。
 しばらく歩いていると、水の滴る音以外にも別の音が聞こえてくる。地下水の流れる音、それに隠れて聞こえてくるネズミの鳴き声、そして、地下水の流れる音が他の音を包み込んでいるため、2人の周囲の緊張が一層強まる。
 数分ぐらい地下道を歩いてると、オルフェたちの視線の先に今まで通った道幅よりもやや広い空間が微かに視認出来た。オルフェはそこから地上へと上がれるだろうと思い、エレンの先を歩いてゆく。そして、そこまで後少しで辿り着こうとしていた。
 しかし、オルフェの肩に水滴が落ちたその瞬間、オルフェの頭上から何者かが飛びかかってきた。オルフェは上を見上げると、橋の上で戦ったあの死神の姿が目に入る。オルフェは腕をクロスさせ、死神の蹴りを何とか防ぐ。重い蹴りでオルフェは後ろに吹き飛ばされそうになったが、前回の戦いと同様エレンがオルフェの背中をしっかりと受け止めたおかげで、オルフェは直ぐ様反撃が出来た。オルフェは死神に向けて銃を撃つ。しかし弾は当たらず、死神はホラー小説に出てくる亡霊のように音も立てず闇の中へと消えていった。
 オルフェは死神の姿が消えていった目的の場所まで辿り着くと、銃を構えながら周囲の状況を確認する。この場所は今までの地下道よりも少しばかり幅が広い程度で形が円状となっている。円状と言うのは平面的な意味で、正確に言うと円柱の形となっていて、オルフェたちが来たちょうど反対側にはまた同じような道が続き、そして右側には梯子が設置されていた。
 オルフェは上を見上げた。上からは今まで以上の光の粒子が舞い降りてくる様子が確認出来る。そして、オルフェはエレンのほうに振り返った。
「さぁ、行こう」
 エレンは頷くとオルフェの手を取った。