――やべっ、弁当忘れた!
血気盛んな男子生徒の声が、教室の前の方でしていた。
――おいお前、半分俺によこせよ。
たかられていたのは、影で陰気だとか、オタクだとか言われている式原君だった。
昼休みにはいつも一人で黙々と弁当をかき込みながら、二次元の美少女が表紙を飾るアニメ雑誌を読んでいる。
彼は男子の中では浮いているようだった。
だけど当の本人は、全く気にしている風でない。
あれくらい振り切ってた方が楽なのかな、なんて一瞬、思ったけど、絶対にあんな風にはなりたくないとすぐに思った。
式原君は俯いて自分の机から顔を上げようとしない。びくびくと無抵抗で自分の弁当箱を差し出している。
搾取されている。
一人でいる人間はターゲットにされやすいのだ。
その様子を見るのが辛くて目を逸らしたから、彼の弁当箱がどうなったのかは分からない。
他の人たちは和気あいあいとお弁当を広げていて、今まさに搾取されている彼や『みんな』なんて言葉で簡単に括る教師の存在は、ぼんやりとした歪みでしかないのだろう。