気が付くと、駆け出していた。
幻を見たのかと思った。
公園の入り口にいたのは、見慣れた黒のパーカーに明るい金髪。
だけどその姿は頼りなさげで、私を夜の暗闇から救い出してくれたような力強さはどこにもなかった。
思わず手を掴んだ。
だってそれは、実体のない夜の幻のようにも思えたから。
握った腕は温かくて、がっしりとした男の子の腕だった。
……生きてる。ちゃんと、バニラだ。
その瞬間、ほっとしてプツンと糸が切れたように力が抜けた。
近くで見るバニラの顔には無数の痣があり、口元からは血が流れていた。
バニラは今にも泣き出しそうな表情で、だけどそれを必死に堪えているようだった。