バニラがいなくなって初めて、私はバニラのことをほとんど何も知らないことに気付いた。

名前はおろか、歳も、住んでいる場所も。……好きなアイスの味も。

いつだってバニラが私の話を聞いてくれたように、もっとバニラのことを聞いておけば良かった。

手を伸ばせば届く距離にいたはずなのに、本当はこんなにも遠い存在だったなんて。

その日から彼女は、毎晩十二時を過ぎると公園で張り込むようになった。

バニラのための、眠らない夜が始まった。

彼女には、もうするしかできなかったのだ。

バニラが現れることを祈って、彼女はただひたすらに待ち続けた。
ーー野良猫みたいにまたひょっこり現れてくれるんじゃないか、どこかでそう思っていた。



だけどそれからしばらく経っても、バニラが現れることはなかった。