「あなたはどうして、一人でお弁当を食べているんですか?」と日沼先生が私に声をかけてきたのと、あの式原君が「僕と付き合わない?」と言い出したのは、バニラと出会って、暫くしてからのことだった。


日沼先生は、いかにも心配でという顔をして昼休みに教室から出ようとする私を呼び止めた。

咄嗟に思ったのは、クラスメイトの誰かに聞かれてはいないだろうか、ということだった。

こんな話、誰かに聞かれるわけにはいかない。


「せっかくの昼休みなんだからーー」


日沼先生は、いつもの声量で話を続けようとする。私は早歩きで三階へ続く階段に向かった。
ーーいつもお昼ご飯を食べるのに勝手に使わせてもらっている空き教室へと続く階段だ。

日沼先生は小走りで私を追ってきた。
三十も過ぎている割には、息ひとつ乱れていない。そういえば、サッカー部の顧問だったような気がする。