それから眠れない夜は、一人で家を抜け出して公園に行くようになった。

そこに行けば、必ずバニラがいたから。

バニラはただ黙って、私の話を聞いてくれた。

バニラの言葉は『ほんとう』だと思った。

だってバニラは、「分かるよ」とか「大丈夫だよ」なんていう安易な言葉に逃げたりしなかったから。
真剣に聞いてくれて、いつもすごく慎重に言葉を返してくれているのが伝わってきた。

いつか、お守りだと私の左手に、油性ペンでにこちゃんマークを書いてくれたこともあった。「イチゴは笑顔の方がいいから」と言って。


最初は、にこちゃんマークなんて子供じみてると思ったけど、どうしてかずっと消えてほしくなくて、薄れていくのがとても惜しかった。


しばらく経って彼女は、自分が話を聞いてもらうばかりで、バニラが自分のことを全然話そうとしないことに気づいた。

だけどそれは、ただ彼に思い悩むことがないからだと、彼女はそう理解してしまっていた。