そうは言ったが、あのクラスに行かなければいけないと思うと、どうしても足が止まってしまう。気が重い。
「…ねぇ。やっぱ無理そう?」
「…………はい」
「無理しないでって言ったじゃん。待ってて、持ってくるから」
 厳密に言えば頭が痛くて行けなかった訳ではない。あのクラスに行って、加藤達に何か言われたら面倒だったからだ。本能がクラスを拒否したと言っても過言ではない気がする。

「はい菜那森くん。気を付けて帰ってね。ゆっくり休みなね」
「はい、ありがとうございました。体調が治ったらバイトってしても良いですか?」
「あー…まぁ良くなったと思ったら良いよ。なるべく控えといた方が良いけど」
「分かりました」
「じゃ、さよなら。お大事に」
 さようなら、と帰りの挨拶をなるべく丁寧に告げ、僕はこの保健室を後にした。
 誰かに見つかりはしないかという杞憂な不安を抱えながら、僕は学校の門を出て自分の寮へと向かった。
 高校生になると、この学校は全寮制になる。部屋は各自で決めていい。僕の部屋の周りには誰もいない。まあ、そっちの方が気楽でいい。
 いつもは見ない昼近い街並みは、何だか新鮮だった。いつもは薄暗くなっている帰路なので、少し眩しく感じられた。帰路の途中で僕を路地裏で待っている猫も、この時間帯にはいなかった。後でちゃんと行ってやろう。
 寮にはすぐに着く。何せ、学校から見える位置にあるから。
 四階の一番左端、四〇一号室の扉を開けて一言。
「ただいまー…今日もお疲れ僕」
 部屋は小さい都会のアパート位。それでも一人の高校生が過ごしていくには十分な大きさだった。むしろ、僕はこの位の大きさの方が、ガラ空き感が無くって好きだった。家具に関しては言うまでもなくシンプルで何の面白みも無い。
 鞄を投げるようにベットに立てかけ、自分も自分をベットに放り投げる様に寝転がった。
 まだ痛い頭を枕に預けて、僕は天井を見上げてみた。電灯以外何もない、ただの白い天井だったがなぜだか遠く感じられた。
 その遠い天井を眺めていると、段々と瞼が重くなってくる。
 「…寝たら良くなるかな」
 それだけ呟いて、僕は素直に重い瞼を閉じた。眠りにつくのは以外に早かった。



「…でさーそれであいつがさー」
「え?それってマジなん?」
「あー疲れたー!ちょ、今からコンビニ行くわぁ!」
 そんなクラスメイトの会話で目が覚めた。隣に誰もいないにしても、かなり大きい音だったのでここまで響いてきた。もっと寝たかった。