この島に、花が咲くことは無い。
多分僕は、ずっと目立たず、相手にされずに生きていくんだろう。とりあえず道端で生きている雑草のように、誰にも気づかれずにとりあえず生き、死んでいくんだ。ずっと、そう思ってた。
君と、もう一度出会うまでは。
春も終わりかけ、夏の暑さが仄かに感じられる五月の下旬のある日の事。
「陰キャ君のお出ましだ〜」
「今日もボサボサヘアーがお似合いですね菜那森サァ〜ン」
五月蝿い奴ら。五月の初め頃から耳元で飛び回る、蝿の様な奴らが、いつもの様にお出迎えだ。
何でなんて考えるのは野暮だと分かりきっている。僕に良い所が無いからに決まっている。今日もでかでかと罵倒の言葉を書かれた机の上に鞄を置く。
「あっそうだ!ねーねー知ってる?明日かどうだか分からないけど、転入生が来るんだって!」
「えっ嘘ぉ。こんな何もない島に来るなんて、とんだ物好きでしょ」
「菜那森みたいな何もない奴だろうなぁ。うっわ、なら楽しみだわ〜」
遠回しに悪口を言われながら、クラスは転入生ネタで持ち切りだった。
聞いて聞かぬふりをしながらも、少し興味はあった。どんな人が来るんだろう。あいつらの言うとおり、何もないこの島に来るって事はかなりの変人に違いない。親の都合とかだったらまだしも。
「この学年かなり人数少ないからさ、ちょっとだけど人数増えるね」
都会とは程遠い、むしろ孤立した島だ。生徒数はかなり少ない。この学年は二十一人しか居なかった。(その中に友達が一人もいないのは言うまでもない。)
「ほら席つけお前らぁ」
担任の野々村だ。三十代半ばの数学教師で、独身のくせに無駄に女を語る訳の分からない教師だ。
「先生今日のノロケ話はぁ?」
「うるせぇぞお前らぁ。ほら変な話はやめやめ。出席取るぞ」
今日は珍しくノロケ話は全く無かった。こういう日はノロケ話を「変な話」として避ける。中々ずるいか、賢い。野々村が出席を取ろうとするや否や、ある生徒が野々村に問いかけた。
「先生ー。転入生が来るっていうのは本当なんですかぁ?」
「ああ。明日早速来るぞ。どんな奴かは知らないけどな」
野々村がそう言うと、クラスがざわつき出した。
どんな子だろー!
女かなぁ?
イケメンが良いなぁー。この学校イケメンいないしー。
「ほらほら静かにー!出席取るぞぉ」
青木ー、安達ー、池田ー、と、野々村の低音ボイスが教室中に響き渡った。案外、低音ボイスは嫌いではない。男子にしては女みたいに声が高い僕にとってはむしろ憧れだった。
「…今日も望月は休みか。まあいい。今日の連絡だが……」
望月は僕がいじめられ始めた位からずっと休んでいる、いわゆる不登校?というやつだった。気にするだけ無駄だとはとうに分かっている。
「…………という訳だか、何か質問あるか?」
誰一人手を挙げない。僕と同様、みんなこの朝のホームルームを早く終わらせたくてうずうずしているのだろう。ホームルームが早く終われば終わるほど、一時間目までの休み時間が増えるから。
「無いな。じゃ、終わり!一時間目の用意してから休み時間!」
野々村はそう言って教室を去ったと同時に、クラスがまたざわつき出した。
「今日はノロケ話無かったねー」
「珍しいよな」
「てか、転入生楽しみ〜」
「それな!まじ誰来るんだろー」
またまた転入生ネタでクラス中の話の話題は持ち切りだ。どうせ僕には関係のない話だ。そう思いながら、1時間目の理科の準備をする。今日は理科室での実験だから理科の教科書、ノート、筆箱、白衣を持って教室を出た。
廊下を歩いて理科室へ向かう途中、突然後ろから強い衝撃を感じた。と、同時に理科の用意を派手に落としてしまった。自分自身は辛うじて転ばなかった。
「あっごめんね菜那森くん〜。影が薄すぎて全然見えなかったぁ〜」
いじめっ子グループの四人だ。リーダー格の加藤、その子分?の田村、安達、相良だ。僕はまたお前らか、という目で軽く睨み返して理科の用意をゆっくりと拾っていく。
「てか、菜那森くんって全然やり返して来ないよね〜」
「自分が何も出来ないってこと、自分でもわかってるんじゃないのぉ〜!?」
「ええ〜かっなしぃ〜」
確かに何も出来ないのは自覚済だが、それだけじゃない。こいつらごときに体力を消耗するのは無駄以外の何者でもないと、分かっていたからだ。
そんなことを考えながら、僕は逃げるような足取りで理科室に向かった。
多分僕は、ずっと目立たず、相手にされずに生きていくんだろう。とりあえず道端で生きている雑草のように、誰にも気づかれずにとりあえず生き、死んでいくんだ。ずっと、そう思ってた。
君と、もう一度出会うまでは。
春も終わりかけ、夏の暑さが仄かに感じられる五月の下旬のある日の事。
「陰キャ君のお出ましだ〜」
「今日もボサボサヘアーがお似合いですね菜那森サァ〜ン」
五月蝿い奴ら。五月の初め頃から耳元で飛び回る、蝿の様な奴らが、いつもの様にお出迎えだ。
何でなんて考えるのは野暮だと分かりきっている。僕に良い所が無いからに決まっている。今日もでかでかと罵倒の言葉を書かれた机の上に鞄を置く。
「あっそうだ!ねーねー知ってる?明日かどうだか分からないけど、転入生が来るんだって!」
「えっ嘘ぉ。こんな何もない島に来るなんて、とんだ物好きでしょ」
「菜那森みたいな何もない奴だろうなぁ。うっわ、なら楽しみだわ〜」
遠回しに悪口を言われながら、クラスは転入生ネタで持ち切りだった。
聞いて聞かぬふりをしながらも、少し興味はあった。どんな人が来るんだろう。あいつらの言うとおり、何もないこの島に来るって事はかなりの変人に違いない。親の都合とかだったらまだしも。
「この学年かなり人数少ないからさ、ちょっとだけど人数増えるね」
都会とは程遠い、むしろ孤立した島だ。生徒数はかなり少ない。この学年は二十一人しか居なかった。(その中に友達が一人もいないのは言うまでもない。)
「ほら席つけお前らぁ」
担任の野々村だ。三十代半ばの数学教師で、独身のくせに無駄に女を語る訳の分からない教師だ。
「先生今日のノロケ話はぁ?」
「うるせぇぞお前らぁ。ほら変な話はやめやめ。出席取るぞ」
今日は珍しくノロケ話は全く無かった。こういう日はノロケ話を「変な話」として避ける。中々ずるいか、賢い。野々村が出席を取ろうとするや否や、ある生徒が野々村に問いかけた。
「先生ー。転入生が来るっていうのは本当なんですかぁ?」
「ああ。明日早速来るぞ。どんな奴かは知らないけどな」
野々村がそう言うと、クラスがざわつき出した。
どんな子だろー!
女かなぁ?
イケメンが良いなぁー。この学校イケメンいないしー。
「ほらほら静かにー!出席取るぞぉ」
青木ー、安達ー、池田ー、と、野々村の低音ボイスが教室中に響き渡った。案外、低音ボイスは嫌いではない。男子にしては女みたいに声が高い僕にとってはむしろ憧れだった。
「…今日も望月は休みか。まあいい。今日の連絡だが……」
望月は僕がいじめられ始めた位からずっと休んでいる、いわゆる不登校?というやつだった。気にするだけ無駄だとはとうに分かっている。
「…………という訳だか、何か質問あるか?」
誰一人手を挙げない。僕と同様、みんなこの朝のホームルームを早く終わらせたくてうずうずしているのだろう。ホームルームが早く終われば終わるほど、一時間目までの休み時間が増えるから。
「無いな。じゃ、終わり!一時間目の用意してから休み時間!」
野々村はそう言って教室を去ったと同時に、クラスがまたざわつき出した。
「今日はノロケ話無かったねー」
「珍しいよな」
「てか、転入生楽しみ〜」
「それな!まじ誰来るんだろー」
またまた転入生ネタでクラス中の話の話題は持ち切りだ。どうせ僕には関係のない話だ。そう思いながら、1時間目の理科の準備をする。今日は理科室での実験だから理科の教科書、ノート、筆箱、白衣を持って教室を出た。
廊下を歩いて理科室へ向かう途中、突然後ろから強い衝撃を感じた。と、同時に理科の用意を派手に落としてしまった。自分自身は辛うじて転ばなかった。
「あっごめんね菜那森くん〜。影が薄すぎて全然見えなかったぁ〜」
いじめっ子グループの四人だ。リーダー格の加藤、その子分?の田村、安達、相良だ。僕はまたお前らか、という目で軽く睨み返して理科の用意をゆっくりと拾っていく。
「てか、菜那森くんって全然やり返して来ないよね〜」
「自分が何も出来ないってこと、自分でもわかってるんじゃないのぉ〜!?」
「ええ〜かっなしぃ〜」
確かに何も出来ないのは自覚済だが、それだけじゃない。こいつらごときに体力を消耗するのは無駄以外の何者でもないと、分かっていたからだ。
そんなことを考えながら、僕は逃げるような足取りで理科室に向かった。