結局、ツルギくんとカガミさんは僕の提案に乗ってきた。

 そして、僕を上手く使おうとした理由も大体分かった。最初は何て愚かな子供かと思ったがそんなことはない。「ごめんちょっときみらのこと馬鹿だと思ってた」と素直に謝って二人も素直に怒った。

「まさか、船で反乱が起きるだなんて」

 この奴隷船には、五百人数十の人間が存在している。

 もちろん、一番多いのは奴隷だ。その数は四百人程度で、その大多数は水夫に命令されて操船にまつわる仕事をしている。

 次に、二十人は船長ダブラと、その直属の水夫たち。つまりは船の運行のメインスタッフだ。

 そして五十人がレーア族という雇われの護衛である。マリアロンドさん……クリーム色の髪をした長身の女性がリーダーだ。戦闘力に秀でており、船が外洋の魔獣に襲われても対処できる腕前の傭兵部隊らしい。

 またレーア族とは別に、五十人ほど雇われの護衛がいる。ただしこちらは外からやってくる魔獣に対処するためではない。船の中で奴隷が反乱を起こすのを防ぐという名目で、バルディエ銃士団という傭兵団が雇われた。ミレットさん……銀髪で銃を持った女性がリーダーである。

 とはいえ、本当のところはマリアロンドさんたちとミレットさんたちを張り合わせることが目的のようだ。船長は用心深く、自分が雇った傭兵団といえども警戒を解かず、「救助が来ない海の真ん中で反乱を起こされる可能性がある」と考えた。そこでレーア族と反目しているバルディエ銃士団を船内の護衛として雇ったのだそうだ。

 用心深い船長だ。見習うべきところがある……と思いつつも、事態は予想外に転がりつつあった。

 レーア族を率いるマリアロンドさんは、反乱を計画している。

 そしてバルディエ銃士団を率いるミレットさんもまた、反乱を計画している。

 協調して船を乗っ取ろうとしている訳ではない。それぞれ独立して反乱を計画しており、あわよくばお互いを倒そうとしている。

「しかし、こうも情報通の子と知り合えたのは幸運でしたね」

 この奴隷船は、様々な港に寄港して、運ぶ予定の奴隷を増やしながら本格的に船旅に出発した。ツルギくんとカガミさんは一番最初に寄った港で船に収容されたらしく、もっとも情報通と言えた。親を失って奴隷狩りに遭ったという不幸な身の上だが、彼らなりに自分の身を守るべく情報収集に徹したり、あるいは食料をくすねたりして生き延びてきたらしい。

 まあ食料をくすねるのは(とが)めるべきところだが、奴隷の待遇は悪い。船員に媚びを売るか盗むかしないと餓死さえありうる。船員もそれを憐れむどころか「多少目減りした方がいい」くらいに思ってる節があり、盗まれる方にもあまり同情できなかった。

 ともあれ、情報通で慎重に行動してきた兄妹が〝他人を襲う〟なんて暴挙に出た理由もよく理解できた。このままだと船が沈みかねない。

 で、僕が取る行動はシンプルだ。

 なるべく穏便に、反乱を諦めてもらおう。

 そのために、更なる情報収集が必要だ。

 安穏と部屋で船旅を楽しむという快楽を捨て、僕は与えられた部屋を出て行動を始めた。