津波と嵐を呼び寄せる気象作戦『海王の雷槌(いかづち)』が破られ、クラーケン部隊は壊滅した。

 だがウィーズリー王子の本当の虎の子は、レヴィアタン。そしてフォートレスタートルである。レヴィアタンの方はある程度生贄となる存在がいないとフルで力を発揮できない大食らいであり、諸刃の刃だ。だからこそ本当に信頼を置いているのは、実はフォートレスタートルである。

 どんな荒波や嵐であろうが背中に拠点そのものを乗せて海原を突き進み、あらゆる攻撃からも防壁となる魔術を発動させて防ぎ切る。海を利用した絶対的な攻撃力こそが青鱗騎士団の武器と思われがちであり、ウィーズリー王子自身もそうしたイメージを活用している。だがその攻撃力の高さは、鉄壁の防御力に支えられるものでもあった。

 なぜなら、テイマーは常に戦場において弱点であるからだ。

 テイマーがどんなに自分自身を鍛え上げて強くなったとしても、テイマーが敗北し、死んだ瞬間に魔獣との契約は切れてしまう。もちろん、契約が切れた後も強い絆で結ばれた魔獣が暴れまわることはある。だが、テイマーから指示なく戦うだけの獣は一時的には恐ろしくとも、戦争の趨勢に影響を及ぼす脅威ではない。敵味方の区別はなく、周囲に混乱をもたらすだけの存在に過ぎない。またテイマーから得られる力も減退するので〝手負いの獣〟となっても脅威度は格段に下がる。

「ちっ、まずいな」

 ウィーズリー王子は、退却を考えていた。

 ここから状況をひっくり返すことは簡単だ。逃げて、力を蓄え、数か月後に再び嵐を食らわせれば良い。津波ではなく嵐のみに限定して召喚すれば、より的確にダメージを与えることができる。敵に多少の備えがあるにしても、一年以内に二度嵐を食らって無事で済むことはまずない。

 だが判断が遅れた。そもそもここまで劣勢となって一切の反撃をせずに退却をすれば、部下の心は離れる。強く、悪く、恐ろしい。その三拍子が揃って初めてならず者たちがウィーズリー王子についてくる。敵だけではなく、味方に侮られてはいけない。

 それがウィーズリー王子の弱点であった。

「うわぁ!?」

「な、何だ!?」

 突然、フォートレスタートルの足元が揺らいだ。

 足の太さだけで建物の柱よりも太いはずのフォートレスタートルが、だ。しかも、フォートレスタートルは魔術によって防壁を張っている。どんなにタクトたちが遠距離攻撃の手段があるにしても、弾き飛ばすことは何の問題もない。レヴィアタンでさえフォートレスタートルを攻略するのは骨が折れることである。

「くそっ! 何をやってやがる! 全員、足元へ行け! 襲撃されてんだぞ馬鹿野郎が! 剣を使え! 知らねえやつがいたら即座にたたっ斬れ!」

 ウィーズリー王子が罵声のような指示を放つ。

 だが一歩遅かった。

 部下の騎士たちが動き出す前に全員が銃で撃たれ、そしてウィーズリー王子の額には銃が突きつけられていた。