そして、訓練が始まった。

 みんな最初は不平不満たらたらであった。

 だがレーア族、バルディエ銃士団混成の部隊を編成してお試しの模擬戦をした瞬間、全員が目の色を変えた。

 こんなにも馴染むのか、と。

「銃は忌むべき恐ろしい武器と思っていたが……悪くないな、これは」

 マリアロンドさんは一キロを超える距離から、マスケット銃を使って、正確に的に当てることができた。

 クラス【魔獣狩り】は、狩猟のための武器に大きな適性を持つ。剣より槍。斧より弓。トラバサミなどの設置型の罠も得意らしい。それを狩猟のみに使うだけではなく、防衛や襲撃といった、人間の拠点を守り、版図を広げるという、人間の発展を象徴するクラスだ。

「呆れた……あなたたち、そんな特性を持っていたのに今まで弓や槍を使っていらしたの?」

 ミレットさんは皮肉を口にしながらもマリアロンドさんの力量に驚き、脱帽していた。少なくとも、ここまで銃を使いこなすクラスを見たことはなかったはずだ。

 銃を使う専門クラス【銃士】を超えている成果だ。【銃士】はあくまで効果的に銃を運用するクラスであり強力だが、山林を縦横無尽に移動したり、あるいは近距離での戦闘をしたりということは苦手だ。というかこれといったバフはかからない。

 だが【魔獣狩り】は【銃士】と同様の銃を操る力を持ちながらも、あらゆる局面に対応できる。更には魔獣を倒すために魔力を武器に込め、性能を強化させることができる。火力もまた【銃士】を上回ってしまう。あくまで対魔獣という状況に限定したものではあるが。

 ちなみに、今撃った的はエーデルの毛を使ったものである。まあエーデルの体からすでに切り離されており防御性能は弱まっているが、それでも鉄壁の防御力を誇る金を編んだ生地で作った旗が綺麗に穿たれていた。地球の防弾チョッキなどよりも遥かに強い繊維なのだが、これには流石に僕もエーデルも驚いた。

「めう」

「あー、いや、お前自身が撃たれてもまだ大丈夫だよ。たぶん」

「めぇ……」

 だが流石にエーデルもショックだったらしい。毛並みが何かしょぼんとしている。

 あとでラーベさんに慰めてもらおう。

 エーデルがそんな調子でも、訓練は続いている。

 マリアロンドさん以外のレーア族の皆も、銃を使ってその威力や馴染み具合に驚いている。どうやらクラスの効果のおかげか、あまり教えられずとも使用法や注意などが頭に入るようだ。

 そしてバルディエ銃士団の皆も最初は渋々といった様子で武器を与えていたが、次第にいろんな銃火器を試すように提案し始めた。

 何かアームストロング砲とか持ち出してきたんだけど大丈夫かな。周辺の野生動物が驚いてパニックを起こさないだろうか。

「ミレットよ」

「何かしら、マリアロンド」

 珍しくマリアロンドさんがライバルの名前を呼び、同じようにミレットさんも名前を呼んだ。

「この場限りだ。ウィーズリー王子を追い払えばまた元通り。だがそれまでは背中を預ける」

 そしてマリアロンドさんが乱暴にミレットさんの手を握った。

 ぐぐぐ、と痛いくらいに握る。

 ミレットさんが脂汗をかいている。

 だがミレットさんはうめき声一つ漏らさず、同じように強く強く握り返した。

 マリアロンドさんの顔色が変わり、苦痛に耐えるように歯を食いしばる。

「お互い様よ。今回だけは頼みますわよ」