僕が下ろされた場所は、レーア族が使っているテントだった。
バルディエ銃士団が使っているテントとほぼ同じ構造だが、あちらのような調度品などはない。そのかわりに彼女らの使っている槍や弓、防具、そして狩りの成果であろう魔獣の肉や戦利品が転がっている。生活感が滲み出ていてこれはこれで落ち着く。
「助かりました、ありがとうございます」
部屋には座布団のような敷物がある。
こちらがレーア族に分けて、余った生地を使ったのだろう。
遠慮なく座らせてもらい、礼を告げた。
「こちらも損得があってのことだ。それと礼ならばお前の部下に言え。この子らが助けを求めに来た」
マリアロンドさんはそう言うと、奥から少年と少女を連れてきた。
「ツルギくん! カガミさん!」
「助かったか」
「心配かけないでよ!」
この二人には開拓団キャンプ地に異常がないか見回りをお願いしていた。
スキルによって僕の不在やミレットさんとの会話に気づき、慌ててマリアロンドさんに救援を依頼したのだろう。
「素晴らしいファインプレーです。ありがとう。僕も開拓団も救われました」
「構わねえよ。礼は別の形で返せよ」
「そうよそうよ! 頑張ったんだからね!」
「食料が増えたら何か甘いものでも作りましょうか。畑を耕して、甘みの出るような野菜や穀物を育てたいですね。あとは蜂蜜やメープルシロップなど収穫できないかチャレンジしたいところです」
自分で言っておいてちょっと興奮してきたな。甘いものを作るのは重要目標としたい。食いつなぐための生活が整い始めたら、潤いのある生活や丁寧な生活を目指したいものだ。
「蜂蜜……!」
カガミさんの方が目を輝かせた。
この子は甘党だろうか。
だがツルギくんの方は妹を見て、やれやれと肩をすくめた。
「甘いものに釣られたのはお前だろ。聞いてたぞ」
「おっと、バレてましたか。すみません、美味しいものを食べちゃいました」
「まあそれはいいんだけど、それより……」
ツルギくんがちらりとマリアロンドさんを見る。
マリアロンドさんもまた、僕に用があるはずだ。ミレットさんと同様に。
「さて、借りは返してもらおうか。人払いをして、二人だけで話をしたい」