「船長代理、そちらはどうでした?」
キャンプ地に戻ると、そこに残っていた人々は当然何事も知らずに穏やかに過ごしていた。
「そろそろ船長代理って呼ぶのやめてくれよ。小さい壺や皿なら焼き上がったぜ」
エリックさんが嬉しそうに成果物を見せてくれた。
素朴な素焼きの土器だ。
ここに残した人たちには、焼き物づくりを頼んでいた。最初は錬金術で焼き物に適した土を作ろうと思っていたが、森の近くの土はうまいこと粘土質になっておりそのまま作れそうだったからだ。奴隷の中に焼き物づくりを生業としていた者が十人以上いたために僕があれこれ指導する必要もなく丸投げできた。ここは非常にラッキーだった。だがその作業も早めに終わらせてもらわないと無駄になってしまう。
「すみませんエリックさん……って、いや、それどころじゃありません。嵐が来ます」
「何だって!? どうするんだよ! 逃げるのか!?」
「そうですね……」
テントは、多少の雨風には耐えられる。
だがそれを支える支柱は少しだけ穴をほって立てただけの木だ。また、足元もただ布を引いただけ。テントそのものに穴が開く心配はあまりないが、倒壊や浸水に対してはどうしようもない。この状態で漫然と嵐を迎えるという訳にはいかない。
「フォルティエさん! 来てください!」
「へぇ……ふう……お呼びですか?」
フォルティエがのっそりのっそり歩いてきた。
妙に疲れている様子だ。
「あー……フォルティエさん、言い忘れて申し訳ないんですがあなたは荷物持ちしなくていいですよ。体力は温存してて下さい」
彼女は大鍋を運ぶのを手伝っていたのだろう。まさか普通に手伝いするとは思わなかった。手持ち無沙汰な人は荷物持ち、と乱暴に命令してしまったのは良くなかったな。
「す、すんまへん……で、何か御用で?」
「嵐が来たとしてここはどうなります? 流されますか?」
「地図もないんで最終的には「知らんけど」って話にはなるんですが、それでも良ければ」
「いいです。ざっくりした話で構いません」
「山や森からは遠いんで地すべりに巻き込まれるとかはまずないんちゃうかなと。このへんは真っ平らですし、地面そのものが削られることなどもたぶんないです。ただそのかわり、予想を超える大雨が来てこのへん一帯全部が水没する……ってのはあるかもしれまへん」
「なるほど……」
この子、お天気リポーターの才能がありそうだ。嵐が来たら吹っ飛ばされそうな細い体ではあるが。
「ツルギくんとカガミさんは戻っていますか? 黒髪の兄妹なんですが」
「いるぞ」
「いるわよ」
僕が呼びかけると、二人はすぐに現れた。
「周囲に避難できそうなところはありますか? ここよりも地盤がしっかりしていて、大雨や大水が来ても大丈夫そうなところなど」
「うーん……山の方は魔獣の気配があるぞ。他の方角はここから隠れてるから見えないけど、土地が低くなってて湿地になってるから、嵐が来たらここよりも危ないと思う」
「留まる方が賢明ですね」
だいたい僕の中で方針は決まった。
必要なものを頭の中で計算する。
「エーデル。とにかく毛を出してくれますか?」
「めぇ」
「それとラーベさん!」
ラーベさんが名前を呼ばれ、おっかなびっくりしながら前に出てきた。
「えっ、えっと、何か……?」
「【織り手】だと言ってましたよね。これから作る糸を生地にして、袋状に縫い合わせて欲しいんです。可能ですか?」
「織り機がないからスキルの効果は半分も出ないし、あなたほどうまくできないと思うけど……」
「錬金では機織りスキルほど効率は良くないんです。それに、これから作りたいのは袋なんです。紐で縛って口を閉じる感じの。小麦とかを保管しておくようなやつです」
「袋? まあ、そのくらいでしたら全然問題ないですけど……」
ラーベさんが曖昧にうなずいた。
「じゃあ、生地をじゃんじゃん作るので作ってください。土嚢を作ります」
「ドノウ?」
「時間がありません。作りながら説明します。さあ行きますよ!」
僕が声を張りあげ、防災対策が始まった。