「やっぱり、なにをするにもまずリドウェルだよなあ」
俺は焚火で、さっき狩った角兎の肉を焼きながらカスミに言う。
「……んぐ。はむはむ」
カスミは一足先に焼けた角兎を頬張っている。
「おい……聞いてるか?」
「ん……ぷは、聞いてる聞いてる!」
絶対聞いてなかっただろ……食いしん坊かよ。
「なんだっけ?」
「だから、向かう先はリドウェルでいいだろ?」
「リドウェル……うん、いいと思うよ。この近くで一番大きい街だし、仕事もきっと見つかるよ」
「そうだよな。生きていくためには仕事は必須だし。どうせなら剣の鍛錬もできるようなところだといいけどな」
言いながら俺は焼けた肉を頬張る。
少し硬いが美味い。家で食べていた食事の方が何倍も豪華で貴重なものだったが、こうして自由に食べる食事の方が俺には美味しく感じる。あの頃のは正直ただの餌だった。今は食事をしてるって感じがする。
「そういえば、リドウェルって確か冒険者活動が活発なんだっけ?」
「あー噂だとそうらしいな。この国では比較的冒険者が多い街だったかな? ……そうか、冒険者って手もあるか。盲点だった。金も稼げるし、修行にもなる。現状の最有力候補かな」
「ふふ、私の知識も捨てたもんじゃないでしょ」
「ああ、ありがとな」
俺はカスミの頭を撫でる。
カスミは嬉しそうに目を細める。
……なんだかカスミがどんどん幼児化してる気がするが……気のせいだと思おう。
そんなこんなで食事も終わり、俺とカスミは同じ場所で木を背もたれにして眠る体制に入る。カスミの相変わらずのスタイルの良さ。綺麗な黒髪。まるで人間のような柔らかさ。幼児化してる気がするとはいえ、身体は同年代だ。
だが、もう一緒に寝ることも慣れた。
人間、いくら美人でも何年も一緒に寝ているとそういった感情も湧いてこないものらしい。
俺はぼろい布を肩までかける。
不思議だが、カスミは魔剣なのにも関わらず人間の姿で生活する方がいいらしい。
まあ、俺にはそこら辺は推し量れないところだ。封印されていた時も人型だったし、そこら辺が関係あるのかもしれないが。
などと考えているうちに、カスミの寝息が聞こえてきて、釣られて俺も眠くなる。
カスミとの訓練で、寝ている間も敵の殺気を察知することが出来るようになった。あの頃は何の役に立つんだと寝かせてくれないカスミにイライラしたが、こういう旅先では便利だな。感謝感謝。
そうして俺は眠りについた。
◇ ◇ ◇
二日後――。
俺達は街道沿いをひたすらにリドウェルに向けて歩く。
リドウェルまでは徒歩で五日程だから、このままいけば後二日程で到着する。
なかなかに遠い。
まあ、馬車にでも乗れば良かったんだが、如何せん俺の所持金は多くない。父さんからは当然もらえなかったし、アラン兄さんからはさすがに悪くてもらえなかった。結果、俺の溜めてきた小遣いが軍資金となる訳だが、家畜扱いの俺がお金をそんなにもらえる訳もなく、こうして徒歩を余儀なくされている。
「悪いな、カスミ。歩かせちまって」
「ううん、私はホロウと歩けて楽しいよ!」
「それはありがたいけど……別に刀に戻ってもいいんだぞ? 腰にぶら下げるだけだしそんな疲れないし」
しかし、カスミは俺の方を向くと満面の笑みを浮かべる。
「大丈夫! あの家じゃずっと刀姿だったし、こんなにホロウと一緒に人型でいられることなんてなかったんだから。それに一緒で歩いてる方が冒険みたいで楽しいでしょ?」
「はは、まあ俺も頭の中で話しかけられるよりこうやって対面して話す方が表情も分かって楽しいからな。それでいいなら俺はそれでいいさ」
「うんうん。さあさあ、リドウェルを目指しましょ! この街道沿いに行けばすぐだよ!」
そう言い、カスミは楽しそうにスキップして進んでいく。
まったく、よっぽど楽しいんだな。
「あんまはしゃぎ過ぎると転ぶぞー」
「大丈夫だよー、転ばないよ! それよりホロウも早くいこう!」
そうしてしばらく楽しく歩いていると、立ち往生している馬車と遭遇する。
「困ったなあ……」
「魔術じゃ壊しちまうよなこれ」
「そうねえ……どうしようかしら」
一人の髭面の男と、その周りに二人の女性。
なんとも不釣り合いな光景だ。
「何かな?」
「何だろうな、故障か? ちょっと見てみるか」
俺たちはその馬車に近づいて話を聞いてみることにした。
「どうかしました?」
すると、髭の男が振り返る。
「おぉ、旅の人かな? 実は馬車の車輪が片方溝にハマっちまってな。男一人女二人じゃ持ち上がらなくて困ってたんだ」
見ると、確かに車輪が溝にずっぽりとはまっている。
これは持ち上げないと抜け出せない。
「魔術だと壊しちまうしよ……私は火属性だし、カレンは水だ、ちょっと持ち上げるには難しいだろ? それで困ってたんだ」
茶色い短髪の女性は、そう言ってはぁっと溜息をつく。
「じゃあ俺が持ち上げましょうか?」
「お、土か風属性の魔術師か?」
「いや、俺は魔術を使えないんだ」
すると、茶髪の女性は笑う。
「あっはっは! 無理無理! 魔術ならまだしも素手ってことだろ? 私らで無理だったんだ、君みたいな子供じゃ到底もちあがらないよ」
「まあ物は試しと言う事で。こう見えても俺は魔術が使えない代わりに身体を鍛えててね。力には自信があるんだ」
「へえ、その武器……剣士って訳か。でもねえ、ぱっとみ細いし、出来るかあ? なあシオン」
茶色い短髪をした女性は、ニヤニヤと笑いながら後ろの長い金髪を無造作に結んだ女性に問いかける。
「そうねえ、気持ちは嬉しいけれど、僕みたいな子にはまだ早いかなあ」
「まあこんな私達みたいな美人の前で格好つけたい気持ちはわかるけどよ。気持ちだけでもありがたく――」
「まあまあ。それじゃ失礼して」
俺ははまっている車輪の方へ回ると、車輪を掴み、ぐっと力を入れる。
「せーーーのっ!!」
フンッ! と力を入れ、俺は全力で車輪を上に上げる。
「ほら、だから無理だ――って……」
ドシン! と音を立て、馬車は街道の方へと移動する。
はまっていた車輪も、見事に抜け出していた。
「ふぅ、どうっすか?」
「お……おぉぉぉ!!! ありがとう!! 本当困ってたんだ!」
髭の男は嬉しそうに言う。
「いえいえ」
「お、おいどうやったんだよ!? 魔術か!?」
「だから使えないって」
「素の力かよ……まじかよ、すげえな少年! びっくりしたぞ! その細い体のどこにそんな力あるんだよ!」
「うんうん! 力持ちだったんだねえ、凄い!」
美女二人に囲まれ、俺は少したじたじとしながら頬を掻く。
「い、いやあ、まあ……」
「何照れてるのホロウ。情けないわよ」
じとーっとした目で、カスミは俺を見る。
なんだその目は……。
「そうだ、二人ともどこへ向かってたんだ?」
「えっと、俺達はリドウェルに」
「おお、じゃあ丁度いいや! 一緒に来ないか? せっかく助けて貰ったんだ。なあ、おっさん!」
「まあそうだな。雇われてるお前らが決めるなと言いたいところだが、恩人だからな、乗せてってやってもいいぞ」
「へへ、だってよ。乗ってけよ!」
俺とカスミは顔を見合わせる。
馬車ならもう一日もしないうちにリドウェルにつくことができるし、何より楽だ。
これは渡りに船と言うやつだな。
「じゃあお願いしようかな」
「そうこなくっちゃ!」
こして俺たちは運よく馬車に乗せてもらう事が出来た。
おっさんの名前はモンド。リドウェルへ向かう商人らしい。
そして茶髪の粗暴な感じの女性がエレナで、金髪の女性がシオン。彼女たちは冒険者をやっていて、モンドが雇った護衛だそうだ。
エレナとシオンと話しながら、のんびりとした旅路。
「これが冒険者の証だ」
エレナはその豊満な胸の中からタグを取り出して見せる。鮮やかな蒼色をしたタグだ。
「蒼色?」
「そう、これは階級を表してんだ。つまり、私達は蒼階級の冒険者さ」
「階級か。冒険者って階級があるの?」
エレナはタグを胸にしまいながら言う。
「冒険者には階級ってのがあんのよ。えーっと、白、赤、蒼、紫……虹、銀、金、白金……だったかな。全部で八階級だな。で、私達は下から三番目の階級って訳。いわゆる中級者ってやつさ」
「へえ、中級者ってことはそれなりの実力者なのか」
「当然よ! まあ虹より上はかなり数が少ないけどなあ。憧れだよ」
「ふーん」
「あ、そうだ、ホロウも冒険者になったらどうだ? それだけ力が強かったら絶対活躍できる依頼あるぞ!」
「俺は剣士だ、戦いたい」
「はっは! 魔術師でさえ苦労する任務がいっぱいなんだぜ? 剣士で戦おうってのか! おもしれえ奴だな!」
とエレナは楽しそうに笑う。
しかし、俺の顔が本気だとわかると、エレナはニィっと口角を上げる。
「へえ、本気って感じ。いいね、そういうチャレンジ精神旺盛な奴は好きだぜ」
「ど、どうも。……まあでも確かに冒険者は悪くないね。一応冒険者として働こうかなとは考えてたんだ」
「おぉ、いいじゃねえか! なっちまえよ、少しなら手伝ってやるからよ!」
カレンは笑いながら、ばしばしと俺の背中を叩く。
「で、そっちの嬢ちゃんは――――」
ドンッ!!
「「「!?」」」
瞬間、激しい揺れが起こり馬車が一気に傾く。
俺たちは慣性にゆられ、ぐわんと身体が揺さぶられる。
「な、なんだ!?」
「掴まれ!! 振り落とされるぞ!」
俺は焚火で、さっき狩った角兎の肉を焼きながらカスミに言う。
「……んぐ。はむはむ」
カスミは一足先に焼けた角兎を頬張っている。
「おい……聞いてるか?」
「ん……ぷは、聞いてる聞いてる!」
絶対聞いてなかっただろ……食いしん坊かよ。
「なんだっけ?」
「だから、向かう先はリドウェルでいいだろ?」
「リドウェル……うん、いいと思うよ。この近くで一番大きい街だし、仕事もきっと見つかるよ」
「そうだよな。生きていくためには仕事は必須だし。どうせなら剣の鍛錬もできるようなところだといいけどな」
言いながら俺は焼けた肉を頬張る。
少し硬いが美味い。家で食べていた食事の方が何倍も豪華で貴重なものだったが、こうして自由に食べる食事の方が俺には美味しく感じる。あの頃のは正直ただの餌だった。今は食事をしてるって感じがする。
「そういえば、リドウェルって確か冒険者活動が活発なんだっけ?」
「あー噂だとそうらしいな。この国では比較的冒険者が多い街だったかな? ……そうか、冒険者って手もあるか。盲点だった。金も稼げるし、修行にもなる。現状の最有力候補かな」
「ふふ、私の知識も捨てたもんじゃないでしょ」
「ああ、ありがとな」
俺はカスミの頭を撫でる。
カスミは嬉しそうに目を細める。
……なんだかカスミがどんどん幼児化してる気がするが……気のせいだと思おう。
そんなこんなで食事も終わり、俺とカスミは同じ場所で木を背もたれにして眠る体制に入る。カスミの相変わらずのスタイルの良さ。綺麗な黒髪。まるで人間のような柔らかさ。幼児化してる気がするとはいえ、身体は同年代だ。
だが、もう一緒に寝ることも慣れた。
人間、いくら美人でも何年も一緒に寝ているとそういった感情も湧いてこないものらしい。
俺はぼろい布を肩までかける。
不思議だが、カスミは魔剣なのにも関わらず人間の姿で生活する方がいいらしい。
まあ、俺にはそこら辺は推し量れないところだ。封印されていた時も人型だったし、そこら辺が関係あるのかもしれないが。
などと考えているうちに、カスミの寝息が聞こえてきて、釣られて俺も眠くなる。
カスミとの訓練で、寝ている間も敵の殺気を察知することが出来るようになった。あの頃は何の役に立つんだと寝かせてくれないカスミにイライラしたが、こういう旅先では便利だな。感謝感謝。
そうして俺は眠りについた。
◇ ◇ ◇
二日後――。
俺達は街道沿いをひたすらにリドウェルに向けて歩く。
リドウェルまでは徒歩で五日程だから、このままいけば後二日程で到着する。
なかなかに遠い。
まあ、馬車にでも乗れば良かったんだが、如何せん俺の所持金は多くない。父さんからは当然もらえなかったし、アラン兄さんからはさすがに悪くてもらえなかった。結果、俺の溜めてきた小遣いが軍資金となる訳だが、家畜扱いの俺がお金をそんなにもらえる訳もなく、こうして徒歩を余儀なくされている。
「悪いな、カスミ。歩かせちまって」
「ううん、私はホロウと歩けて楽しいよ!」
「それはありがたいけど……別に刀に戻ってもいいんだぞ? 腰にぶら下げるだけだしそんな疲れないし」
しかし、カスミは俺の方を向くと満面の笑みを浮かべる。
「大丈夫! あの家じゃずっと刀姿だったし、こんなにホロウと一緒に人型でいられることなんてなかったんだから。それに一緒で歩いてる方が冒険みたいで楽しいでしょ?」
「はは、まあ俺も頭の中で話しかけられるよりこうやって対面して話す方が表情も分かって楽しいからな。それでいいなら俺はそれでいいさ」
「うんうん。さあさあ、リドウェルを目指しましょ! この街道沿いに行けばすぐだよ!」
そう言い、カスミは楽しそうにスキップして進んでいく。
まったく、よっぽど楽しいんだな。
「あんまはしゃぎ過ぎると転ぶぞー」
「大丈夫だよー、転ばないよ! それよりホロウも早くいこう!」
そうしてしばらく楽しく歩いていると、立ち往生している馬車と遭遇する。
「困ったなあ……」
「魔術じゃ壊しちまうよなこれ」
「そうねえ……どうしようかしら」
一人の髭面の男と、その周りに二人の女性。
なんとも不釣り合いな光景だ。
「何かな?」
「何だろうな、故障か? ちょっと見てみるか」
俺たちはその馬車に近づいて話を聞いてみることにした。
「どうかしました?」
すると、髭の男が振り返る。
「おぉ、旅の人かな? 実は馬車の車輪が片方溝にハマっちまってな。男一人女二人じゃ持ち上がらなくて困ってたんだ」
見ると、確かに車輪が溝にずっぽりとはまっている。
これは持ち上げないと抜け出せない。
「魔術だと壊しちまうしよ……私は火属性だし、カレンは水だ、ちょっと持ち上げるには難しいだろ? それで困ってたんだ」
茶色い短髪の女性は、そう言ってはぁっと溜息をつく。
「じゃあ俺が持ち上げましょうか?」
「お、土か風属性の魔術師か?」
「いや、俺は魔術を使えないんだ」
すると、茶髪の女性は笑う。
「あっはっは! 無理無理! 魔術ならまだしも素手ってことだろ? 私らで無理だったんだ、君みたいな子供じゃ到底もちあがらないよ」
「まあ物は試しと言う事で。こう見えても俺は魔術が使えない代わりに身体を鍛えててね。力には自信があるんだ」
「へえ、その武器……剣士って訳か。でもねえ、ぱっとみ細いし、出来るかあ? なあシオン」
茶色い短髪をした女性は、ニヤニヤと笑いながら後ろの長い金髪を無造作に結んだ女性に問いかける。
「そうねえ、気持ちは嬉しいけれど、僕みたいな子にはまだ早いかなあ」
「まあこんな私達みたいな美人の前で格好つけたい気持ちはわかるけどよ。気持ちだけでもありがたく――」
「まあまあ。それじゃ失礼して」
俺ははまっている車輪の方へ回ると、車輪を掴み、ぐっと力を入れる。
「せーーーのっ!!」
フンッ! と力を入れ、俺は全力で車輪を上に上げる。
「ほら、だから無理だ――って……」
ドシン! と音を立て、馬車は街道の方へと移動する。
はまっていた車輪も、見事に抜け出していた。
「ふぅ、どうっすか?」
「お……おぉぉぉ!!! ありがとう!! 本当困ってたんだ!」
髭の男は嬉しそうに言う。
「いえいえ」
「お、おいどうやったんだよ!? 魔術か!?」
「だから使えないって」
「素の力かよ……まじかよ、すげえな少年! びっくりしたぞ! その細い体のどこにそんな力あるんだよ!」
「うんうん! 力持ちだったんだねえ、凄い!」
美女二人に囲まれ、俺は少したじたじとしながら頬を掻く。
「い、いやあ、まあ……」
「何照れてるのホロウ。情けないわよ」
じとーっとした目で、カスミは俺を見る。
なんだその目は……。
「そうだ、二人ともどこへ向かってたんだ?」
「えっと、俺達はリドウェルに」
「おお、じゃあ丁度いいや! 一緒に来ないか? せっかく助けて貰ったんだ。なあ、おっさん!」
「まあそうだな。雇われてるお前らが決めるなと言いたいところだが、恩人だからな、乗せてってやってもいいぞ」
「へへ、だってよ。乗ってけよ!」
俺とカスミは顔を見合わせる。
馬車ならもう一日もしないうちにリドウェルにつくことができるし、何より楽だ。
これは渡りに船と言うやつだな。
「じゃあお願いしようかな」
「そうこなくっちゃ!」
こして俺たちは運よく馬車に乗せてもらう事が出来た。
おっさんの名前はモンド。リドウェルへ向かう商人らしい。
そして茶髪の粗暴な感じの女性がエレナで、金髪の女性がシオン。彼女たちは冒険者をやっていて、モンドが雇った護衛だそうだ。
エレナとシオンと話しながら、のんびりとした旅路。
「これが冒険者の証だ」
エレナはその豊満な胸の中からタグを取り出して見せる。鮮やかな蒼色をしたタグだ。
「蒼色?」
「そう、これは階級を表してんだ。つまり、私達は蒼階級の冒険者さ」
「階級か。冒険者って階級があるの?」
エレナはタグを胸にしまいながら言う。
「冒険者には階級ってのがあんのよ。えーっと、白、赤、蒼、紫……虹、銀、金、白金……だったかな。全部で八階級だな。で、私達は下から三番目の階級って訳。いわゆる中級者ってやつさ」
「へえ、中級者ってことはそれなりの実力者なのか」
「当然よ! まあ虹より上はかなり数が少ないけどなあ。憧れだよ」
「ふーん」
「あ、そうだ、ホロウも冒険者になったらどうだ? それだけ力が強かったら絶対活躍できる依頼あるぞ!」
「俺は剣士だ、戦いたい」
「はっは! 魔術師でさえ苦労する任務がいっぱいなんだぜ? 剣士で戦おうってのか! おもしれえ奴だな!」
とエレナは楽しそうに笑う。
しかし、俺の顔が本気だとわかると、エレナはニィっと口角を上げる。
「へえ、本気って感じ。いいね、そういうチャレンジ精神旺盛な奴は好きだぜ」
「ど、どうも。……まあでも確かに冒険者は悪くないね。一応冒険者として働こうかなとは考えてたんだ」
「おぉ、いいじゃねえか! なっちまえよ、少しなら手伝ってやるからよ!」
カレンは笑いながら、ばしばしと俺の背中を叩く。
「で、そっちの嬢ちゃんは――――」
ドンッ!!
「「「!?」」」
瞬間、激しい揺れが起こり馬車が一気に傾く。
俺たちは慣性にゆられ、ぐわんと身体が揺さぶられる。
「な、なんだ!?」
「掴まれ!! 振り落とされるぞ!」