「きゃあああああ!」
「た、戦えええええ! 守るんだ、学院を!」

 辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
 それでも、さすが国内のエリートを集めた学院だけあり、実戦経験こそ乏しいがそのたぐいまれなる魔術の力により、何とか対抗出来ていた。

 地の利を生かした徹底防衛。だがしかし、それも時間の問題に見えた。
 一刻も早く、この奇襲の目的を打ち破らなければ、先に力尽きるのはどちらかは目に見えていた。

『ホロウ、ここ!!』
「え!?」
『食堂!』
「!!」

 俺は慌てて急カーブすると、急いで食堂へと入っていく。
 すると。

「――”水牢《ウォータージェイル》”!」

 地面の魔法陣から水があふれ出し、目の前の竜騎士を水の牢獄へ閉じ込める。

「セシリア!!」
「ホロウ!」

 杖を掲げ、魔術を放つセシリアの姿がそこにあった。
 その後ろには、怯えて屈むリゼッタの姿があった。

「大丈夫、リゼッタ!?」
「え、ええ……セシリアさんが守ってくれたから……!」
「ありがとうセシリア!」
「当然よ、それより、どうなってるのこいつら……!」

 セシリアは息を荒げながら問う。

「魔剣だ……きっと狙いはあの塔だ」
「そのためにこんな……」

 セシリアは外から聞こえてくる叫び声に、悲痛な表情を浮かべる。

「セシリア、俺はこれから魔剣を守りに行く」
「それって……! 危ないわ、剣聖様が来るのを待った方が……」
「いや、それじゃあ遅い。今魔剣を守らないと、大変なことになる……!」

 俺の真剣な表情に、セシリアはじっと俺を見つめる。

「なら、私も一緒に――」
「それは駄目だ!」
「!」

 少し大きな声を出した俺に、セシリアは僅かに目を見開く。
 駄目だ。相手はただでさえ魔剣を狙っている集団だ。たとえ塔の魔剣じゃなかったとしても、魔剣を――カスミを持っている俺を狙わない保証はない。

 そうなると、俺の傍にいることはここにいるよりもっと彼女たちを危険にさらしてしまうかもしれない。

 俺のその葛藤を悟ってか、セシリアは短くため息をつく。

「……わかったわ。ここは私に任せて。ホロウは魔剣の塔へ行って。リゼッタは私が守るわ」
「いや、もっと奥に隠れて――」
「私は冒険者、そして魔術師よ。一か月とはいえ私も立派なこの学院の生徒なの。戦うわよ、こればかりは譲れない」
「セシリア……そうだよね。セシリアならそう言うと思った」

 はにかむセシリアに、その後ろのリゼッタもグッと拳を握る。

「私も頑張ります……!」
「無理しないで、リゼッタも危なく成ったらすぐ奥に逃げて!」
「ホロウ君も!」

 そうして、俺達は二人と別れると、あの塔へと向かって走り出す。
 必ずあそこに誰かが向かっているはずだ。

 学院内の至る所で騒ぎを起こし、学院内の警備を全てそこへ集約させる。

 がら空きになった塔へと悠々と忍び込む。そんなことを考える、魔王教団の構成員が。

◇ ◇ ◇

 俺たちはルシカから教えて貰った塔へとたどり着いた。

 森の中に聳える古びた塔。
 入り口は崩れ、辺りには蔦が大量にのびている。

 石造りは崩れ、とてもじゃないがここに魔剣があるとは思えない廃墟だ。

 すると、隣に立つカスミが顔をしかめる。

「ホロウ……匂うわ、ここ」
「俺もそう感じてた。カスミ」

 俺はカスミの方に手を伸ばす。

 カスミは何も言わず俺の手を握ると、シュルシュルシュルと、刀へと姿を変える。

 それを上段で構え、俺はじっと塔の方を見る。そして。

「はああああ!!!」

 一閃――。

 何もない空間をただ縦に切り裂く。
 すると、まるで薄い布を切ったかのように、何かの膜がハラリと破れていく。

 そして、次の瞬間。俺達は感嘆の声を上げる。

「おぉ……これが……」
「さすが魔術学院。私でも近づくまで気が付かなかったわ」

 目の前に現れたのは、空を貫く立派な塔だった。