「魔剣が……?」
「あぁ。あの塔が見えるか?」

 ルシカは窓から森の方を指差す。
 そこには、木々の中に紛れて一つの古びた塔が立っていた。

「あれはかなり強い結界が貼ってある宝物庫になっていてね。古今東西のさまざまな魔術的な物品が眠っている」
「その中に魔剣があるってこと……ですか?」
「そういうことだ。魔術学院に眠っているというのはそれほど広まっている話じゃないから、知っている者はそういないがな。昔から生きてる私くらいなものだ」

 この学院に魔剣が……。
 なんだろう、とてつもなく胸騒ぎが……。

『まずいな……そこの魔剣の守りはどうなっている?』
「ないさ。だって誰も知らないんだから」
『…………仕方ない、私が行こう。現物の確認が出来たら、守りを固める申請をする。明日向かうから、案内を頼んでいいかい、ホロウ』
「わかりました」

 魔王教団……あの腐食の剣士――リディアの組織……。
 魔剣が揃うと、世界が手に入るか……。

 空は曇り始めていた。何かが起こりそうな……そんな嫌な予感が拭えなかった。

「ホロウ……」

◇ ◇ ◇

「遅いなあ、ヴァレンタインさん」
「そうね、何やってるのかしら。こんなところで私達を待たせて!」

 早速学院の魔剣を見に来るヴァレンタインさんを出迎えるため、俺たちは正門まで来ていた。

 ここまで守衛の人がヴァレンタインさんを連れてくる手はずだ。
 堅牢なこの学院は、陸路ではまず侵入できないだろう。これだけセキュリティが硬い建物も稀だ。それだけ、この魔術学院というものに秘匿性が高いんだろうな。

「リゼッタとセシリアは食堂でしょ? あーあ、私もそっちにいればよかったかしら」

 カスミはふてくされるようにプンと頬をふくらませる。

「ごめんよ、カスミ。今からでも戻ってていいよ?」
「……冗談よ、もう! 私がホロウから離れる訳無いでしょ!」
「あはは……。それじゃ――」

 と、俺が振り返った瞬間。それは、俺の視界の片隅に捉えられた。

 一瞬目を疑う光景。だが、それは確実に現実だった。
 空一面を覆う、黒影。

「カスミ、あれ……!!」
「え?」
「あれは……ドラゴン!?」

 それは、曇天の空に浮かぶ、ドラゴン達の姿だった。その背には、誰かが乗っていた。魔術学院が催したイベント……などと、呑気なことを思っていられる光景ではなかった。そこにあるのは、明確な敵意だ。

 そのドラゴン達はそのまま学院の敷地内に侵入すると、魔術のようなものを放ち、学院に雷が落ちる。遅れて、爆発音。

「!?」
「雷……魔術!? うそ、何が起こってるの!?」

 遠くから悲鳴が聞こえてくる。
 ざわっと、体中の毛が逆立つ。

「襲われてる……!? まさか、魔剣を狙って!?」
「魔王教団!? 魔剣の在り処を嗅ぎつけたってこと!?」
「そうとしか考えられない! このタイミングで、まさか上空からやってくるなんて……!」

 俺は、すぐさま踵を返して走り出す。

「ホロウ!?」
「昨日ルシカさんが言っていた塔に向かおう!! 魔剣が危ない!」

◇ ◇ ◇
 
「魔王教団……バンザイ……」
「くっ!!」

 俺は剣を振り、目の前の騎士を切り倒す。
 そばには、小型のドラゴン。つまり、竜騎士だ。

「はあ、はあ……!」
『ホロウ、これって……』
「あぁ、やっぱり魔剣だ……!」

 空からは、次々と竜騎士達が乗り込んできていた。
 こいつらすべて、魔王教団……! まさかこれほど人数が多いなんて……!
 
「きゃあああああ」
「無理だ……逃げろおおおおお!!」
「うわあああ!」

 学院は阿鼻叫喚だった。みんなパニック状態だ。
 無理もない。こんな、突然わけも分からず襲われるなんて、普通考えられる訳がない。

「くそ、魔剣が……でも、生徒達も見捨てられない!」
「ホロウ……」

 くそ、どうすれば……魔剣が奴らの手に渡れば、この世界が……。

 すると、聞き慣れた声が響く。

「隊列を組め、馬鹿どもが! いいようにやられてどうする! 僕たちは誇り高きリグレイス魔術学院生だぞ!!」

 生徒たちを一括する声は、癖っ毛の上級生から聞こえてきた。
 二階のバルコニーから叫ぶ彼は、魔術で一人の竜騎士を地面に叩き落とす。

「クエン先輩……」
「クエンの言うとおりだ、戦うぞ!! 俺たちが団結すれば、こんな敵訳ない!」
「貴族を……魔術師を舐めるなよ、賊が!!」

 うおおおおお! と、生徒たちが団結していく。
 その光景に、俺は思わず高揚していた。

「クエン兄さん……!」
『あのポンコツ兄貴……意外とやるじゃない』
「あぁ……腐っても、僕の兄さんなんだから……!」

 俺の中の迷いは消えていた。

「行こう、カスミ。ここはクエン兄さんたちに任せて、魔剣がある塔へ……!」
『ええ!』