「おめでとう、ホロウ君、それにセシリアちゃん。――いや、この場合はありがとうと言った方が良いか」
ヴァレンタインは豪華な宿屋のソファーに腰かけ、俺たち三人をニコニコと見つめながら言う。
「いや、まさか本当に合格できるなんて……」
「ホロウなら絶対合格できるってわかってたわよ、私は!」
カスミは自分のことのように誇らしげに胸を張る。
それを見て、ヴァレンタインも笑みをこぼす。
「僕もその見込みがあって君を推薦したからね。受かることはわかっていたよ」
「そ、そうですかね。ありがとうございます……!」
俺は小さくぺこりと頭を下げる。
少し気恥しい気持ちだった。
魔術を使えない俺が、魔術学院に合格だなんて。今まで認められてこなかった俺が。
なんだか不思議な感覚だ。
……だけど、喜んでばかりもいられない。
俺は強くなるために学院にいって、そこでカスミの旧友である吸血種――ルシカさんに会うんだ。
「ホロウ……」
カスミが少し悲しそうな目でこちらを見る。
何となくその意味は分かる。けれど、リーズたちの犠牲をなかったことにはできない。
今後も俺がカスミと共に生きていき、みんなと仲良くしていくには強くなるしかないんだ。
「そして、おめでとうございます、リゼッタ皇女。大変すばらしい魔術の腕だったとお聞きしました」
しかし、リゼッタは慌ててブンブンと手を左右に振る。
「い、いえそんな……! 私なんて、力が大きいだけで、セシリアさんみたいに上手く操れたわけではないですから……」
リゼッタは目を伏せながら、長い髪を耳にかける。
「いえいえ、結果が全てですよ。ほら、あなたたちはあのリグレイス魔術学院の編入試験に合格したんです! 胸を張りましょう!」
「「…………」」
しかし、俺とリゼッタは微妙な表情で顔を見合わせる。
「え、えっと、二人とも合格は合格だし、喜んでいいと思うよ?」
セシリアが恐る恐る言う。
「いいえ……――いえ、そうですね。けれど、私は……私はこれでも皇女……こんな結果……!」
リゼッタは顔を覆う。
何がリゼッタをこうまで悲しそうにさせるのか。そう、何を隠そう俺とリゼッタは同じクラスとなったのだ。
ただクラスメイトになったという訳ではない。俺と同じクラスというのが問題なのではなく、そのクラス自体が問題なのだ。
ヴァレンタインはテーブルに置かれた合格通知書を拾い上げる。
「リグレイス魔術学院は入学時の成績順でAからCクラスに分かれる。Aがもっとも優秀で、後ろに行くほど評価は低い。そして君たちは……Cクラスと」
俺とリゼッタは頷く。
「セシリアちゃんはAクラス。さすがだね」
「そ、そんなことないですよ! ホロウが強いことは私も分かってますし、まあそもそも魔術じゃなくて剣術を魔術と見まがうほどのレベルで使うというのがもう規格外というか……」
するとヴァレンタインは笑う。
「まさにその通り! ホロウ、君は胸を張っていい。君の剣術は、もはや魔術ということだ」
「そうですかね……」
「そうとうも! そしてリゼッタ皇女」
「は、はい!」
リゼッタはしゃきっと背を伸ばす。
「あなたも相当な潜在能力を持っていますよ。評価欄には、あなたの才能と頭脳を高く評価している。魔術においてその二点はとても重要なものです。リグレイスはそこを見て貴女の入学を許可した。誇っていいですよ」
にこりと笑うヴァレンタインに、リゼッタも何度か頷く。
「そうかもしれませんね……。そもそも、私は学びに来た立場です。こんなところで落ち込んでいても始まりませんよね。まずは、合格できたことを喜び、そしてしっかりと学んで帰ります! 期間は短いですからね」
「その意気です。学院は一週間後から始まります。せっかくの学院です、楽しむことも忘れずに」
「「「はい!」」」
◇ ◇ ◇
――そして、一週間後。
リグレイス魔術学院、学院長室。
白髪でローブを纏った初老の男性は、俺達を見回す。
「ようこそ、我がリグレイス魔術学院へ。私は校長のマグダス。よろしく」
校長はにこりと笑う。
「あなたがリゼッタ皇女。お目に罹れて光栄です」
「い、いえこちらこそ! 短い間ですが、よろしくお願いいたします!」
リゼッタは恐縮して深々とお辞儀をする。
「我が校は由緒正しい魔術学院です。あなたが皇女だとしても、特別扱いはしません」
「もちろんです……!」
強い意志でそう言い切るリゼッタに、校長はほほ笑む。
「よろしい。あなたのそういう魔術に真摯なところを私たちは評価したんです。そして、ホロウ」
「はい」
校長は俺を見る。
「ホロウ・ヴァーミリア……。あなたのお兄さんたちもこの学院でとても優秀な成績を収めています」
「そうなの!?」
セシリアは驚きの声を上げる。
「あなたにも光るものを感じました。どうやら、兄たちとは違う道を歩んでいるみたいですが……この学院での一か月間が君にとって良いものになることを願っているよ」
「ありがとうございます」
「そして、セシリア」
「はい」
「君はとても優秀だ。この学院の生徒の中でもトップクラスの」
「あ、ありがとうございます」
校長はにこやかに頷く。
「短期だが、学べることはきっと多い。ぜひこの機会に魔術を極め、この国の魔術の発展に寄与してくれるとありがたい」
「が、がんばります……!」
こうして俺たち全員に言葉をもらい、簡易的な入学式は終了した。
俺たちは今日から、このリグレイス魔術学院に短期入学するのだ。
ヴァレンタインは豪華な宿屋のソファーに腰かけ、俺たち三人をニコニコと見つめながら言う。
「いや、まさか本当に合格できるなんて……」
「ホロウなら絶対合格できるってわかってたわよ、私は!」
カスミは自分のことのように誇らしげに胸を張る。
それを見て、ヴァレンタインも笑みをこぼす。
「僕もその見込みがあって君を推薦したからね。受かることはわかっていたよ」
「そ、そうですかね。ありがとうございます……!」
俺は小さくぺこりと頭を下げる。
少し気恥しい気持ちだった。
魔術を使えない俺が、魔術学院に合格だなんて。今まで認められてこなかった俺が。
なんだか不思議な感覚だ。
……だけど、喜んでばかりもいられない。
俺は強くなるために学院にいって、そこでカスミの旧友である吸血種――ルシカさんに会うんだ。
「ホロウ……」
カスミが少し悲しそうな目でこちらを見る。
何となくその意味は分かる。けれど、リーズたちの犠牲をなかったことにはできない。
今後も俺がカスミと共に生きていき、みんなと仲良くしていくには強くなるしかないんだ。
「そして、おめでとうございます、リゼッタ皇女。大変すばらしい魔術の腕だったとお聞きしました」
しかし、リゼッタは慌ててブンブンと手を左右に振る。
「い、いえそんな……! 私なんて、力が大きいだけで、セシリアさんみたいに上手く操れたわけではないですから……」
リゼッタは目を伏せながら、長い髪を耳にかける。
「いえいえ、結果が全てですよ。ほら、あなたたちはあのリグレイス魔術学院の編入試験に合格したんです! 胸を張りましょう!」
「「…………」」
しかし、俺とリゼッタは微妙な表情で顔を見合わせる。
「え、えっと、二人とも合格は合格だし、喜んでいいと思うよ?」
セシリアが恐る恐る言う。
「いいえ……――いえ、そうですね。けれど、私は……私はこれでも皇女……こんな結果……!」
リゼッタは顔を覆う。
何がリゼッタをこうまで悲しそうにさせるのか。そう、何を隠そう俺とリゼッタは同じクラスとなったのだ。
ただクラスメイトになったという訳ではない。俺と同じクラスというのが問題なのではなく、そのクラス自体が問題なのだ。
ヴァレンタインはテーブルに置かれた合格通知書を拾い上げる。
「リグレイス魔術学院は入学時の成績順でAからCクラスに分かれる。Aがもっとも優秀で、後ろに行くほど評価は低い。そして君たちは……Cクラスと」
俺とリゼッタは頷く。
「セシリアちゃんはAクラス。さすがだね」
「そ、そんなことないですよ! ホロウが強いことは私も分かってますし、まあそもそも魔術じゃなくて剣術を魔術と見まがうほどのレベルで使うというのがもう規格外というか……」
するとヴァレンタインは笑う。
「まさにその通り! ホロウ、君は胸を張っていい。君の剣術は、もはや魔術ということだ」
「そうですかね……」
「そうとうも! そしてリゼッタ皇女」
「は、はい!」
リゼッタはしゃきっと背を伸ばす。
「あなたも相当な潜在能力を持っていますよ。評価欄には、あなたの才能と頭脳を高く評価している。魔術においてその二点はとても重要なものです。リグレイスはそこを見て貴女の入学を許可した。誇っていいですよ」
にこりと笑うヴァレンタインに、リゼッタも何度か頷く。
「そうかもしれませんね……。そもそも、私は学びに来た立場です。こんなところで落ち込んでいても始まりませんよね。まずは、合格できたことを喜び、そしてしっかりと学んで帰ります! 期間は短いですからね」
「その意気です。学院は一週間後から始まります。せっかくの学院です、楽しむことも忘れずに」
「「「はい!」」」
◇ ◇ ◇
――そして、一週間後。
リグレイス魔術学院、学院長室。
白髪でローブを纏った初老の男性は、俺達を見回す。
「ようこそ、我がリグレイス魔術学院へ。私は校長のマグダス。よろしく」
校長はにこりと笑う。
「あなたがリゼッタ皇女。お目に罹れて光栄です」
「い、いえこちらこそ! 短い間ですが、よろしくお願いいたします!」
リゼッタは恐縮して深々とお辞儀をする。
「我が校は由緒正しい魔術学院です。あなたが皇女だとしても、特別扱いはしません」
「もちろんです……!」
強い意志でそう言い切るリゼッタに、校長はほほ笑む。
「よろしい。あなたのそういう魔術に真摯なところを私たちは評価したんです。そして、ホロウ」
「はい」
校長は俺を見る。
「ホロウ・ヴァーミリア……。あなたのお兄さんたちもこの学院でとても優秀な成績を収めています」
「そうなの!?」
セシリアは驚きの声を上げる。
「あなたにも光るものを感じました。どうやら、兄たちとは違う道を歩んでいるみたいですが……この学院での一か月間が君にとって良いものになることを願っているよ」
「ありがとうございます」
「そして、セシリア」
「はい」
「君はとても優秀だ。この学院の生徒の中でもトップクラスの」
「あ、ありがとうございます」
校長はにこやかに頷く。
「短期だが、学べることはきっと多い。ぜひこの機会に魔術を極め、この国の魔術の発展に寄与してくれるとありがたい」
「が、がんばります……!」
こうして俺たち全員に言葉をもらい、簡易的な入学式は終了した。
俺たちは今日から、このリグレイス魔術学院に短期入学するのだ。