俺は思わず声を上ずらせる。

 セシリアが王都に居る何て思いもしなかったのだ。なんせ、セシリアとは一週間前にリドウェルで別ればかりなのだから。

 あの時は王都に行くという話もなかったのに、まさかこんなところで会うなんて。

 セシリアの登場に面食らっていると、セシリアは逆に落ち着いた様子で話し出す。

「ホロウ、カスミ久しぶりね。一週間ぶりくらいかしら?」
「そ、そうだね。まあ、久しぶりというほどじゃないけど……まさか王都に来てるなんて思わなかったよ。いつから?」
「二日前からよ」

 来たのは大分最近らしい。
 すると、カスミは机に突っ伏したまま、じーっとセシリアを見つめながら言う。

「へえ、王都に何しに来たの?」

 するとセシリアは頬を掻きながら。

「あー、ちょっと用があってね。話を聞きに来ていたの」
「ふーん、そうなんだ。忙しそうね」

 セシリアも王都で用事か。
 そういえばセシリアがどういう子なのか、そこまで深い話はしたことがなかった。王都に何らかの縁があるのだろうか。

「まあでも、元気そうで良かったよ。調子はどう?」
「ぼちぼちね。王都の冒険者ギルド覗いてきたけど、ちょっとレベルが高いわね」
「あぁ……俺達も行ったけど、みんなすごかったね」

 決してリドウェルがレベルが引くわけではない。
 ただ、王都は基本的に安全が保障されているため、近隣での任務というのはあまりない。だから、王都に居るような冒険者というのは雑用で小遣い稼ぎをするか、もっと強大な敵を倒すために居るかの二択なのだ。

 だから、リドウェルに比べて上位階級の冒険者の数が圧倒的に多い。

「けど、やる気貰ったわ。私も負けてられないわ」

 そういうセシリアの顔はいつも通りだ。
 すると、セシリアはずいと俺の顔を覗き込む。

「逆にホロウは……ちょっとやつれた? ちゃんと食べないとだめよ」
「わ、わかってるよ。大丈夫だよ」

 俺は顔をまじまじと見られたのが恥ずかしくて咄嗟に顔を逸らす。
 それを、カスミがじとーっとした目で凝視している。

「本当に? それならいいんだけど……無理しないでね」
「あはは……お母さんみたいだな」
「なっ! い、いやそう言う訳じゃ……」

 と、セシリアも恥ずかしそうに髪をいじる。

「はいはい、楽しそうでいいわね」
「カ、カスミ……!」

 カスミは腕を組んでぷいとそっぽを向く。
 話に入れなかったのが寂しかったのだろうか。

「あ、そうだ。セシリアにも聞いておこうよ」
「あぁ、そうね。セシリア、これ」
「? なにかしら」

 カスミは持っていた紙をセシリアに渡す。

「私達人を探してるの」
「人探し?」

 カスミは頷く。
「その顔に見覚えない?」
「顔……」

 セシリアは顎に手を当てながら、受け取った紙をじーっと見つめる。

「王都に居ることは分かってるんだけどさ、全然見つからなくて」

 王都はただでさえ人口が多い。それに加え、そもそもカスミの記憶通りの特徴のまま生活しているかも怪しい。

 カスミが最後に見てから六百年。
 そんなに時間が経っているなら多少は外見に変化があってもおかしくはない。

 そもそも吸血鬼という物自体、俺はよくわかっていない。
 かつて実際に居た種族だという話は聞いたことがあるが、殆ど伝説上の存在だ。

 カスミ曰く、吸血鬼は不老で外見は二十代の姿から一切変わっていないはずだ、ということらしいけど。

「どうかしら?」

 言われて、セシリアは首をかしげながら。

「…………蛇?」
「ヒ・ト!! もう、そんな言うんなら返して!」

 と、カスミはキーっと髪を逆立て、セシリアから紙を奪い返そうとする。

「ま、まあカスミ落ち着いてよ!」

 俺は慌ててカスミの身体を抑え込む。

「ご、ごめんなさい! そんなつもりは……」

 セシリアは申し訳なさそうに眉を八の字にしている。
 そして改めて人相書きを見る。

「そ、そうね、理由はわからないけどこの人を探しているのね。わかった、もし見つけたら報告するわ。私もしばらくは王都に居る予定だし」
「本当!?」

 俺はまだ興奮しているカスミを抑えながら、キラキラとした目をセシリアに向ける。

「うん。王都に詳しそうな人にも聞いておくわ。助けになるといいけど」
「十分だよ、ありがとう!」
「同期のよしみだからね。持ちつ持たれつよ」

 そうして、セシリアはカスミ印の人相書きを懐にいれると、手を振って去って行った。

 まさか王都でセシリアに会うなんて。
 一体何の用で来ているかは気になるけど……あまり詮索しない方がいいかもしれない。お互いに、触れて欲しくないことはあるものだ。

 とにかく、セシリアも裏で探してくれるならありがたい。

「さて、カスミ」

 俺は立ち上がると、カスミの手を掴む。

「次の所に聞き込みに行こう! 早く見つけて強くならないと!」
「そうね、何としても見つけてやるんだから……! 私に恥をかかせて……あの吸血鬼め!」

 こうして俺たちは、ひたすらに王都中を聞き込みして回ったのだった。