「戻ってたのか、リディア。相変わらず美しいな」

 鎧を着た青髪の男は、リディアの座る隣の椅子に腰かける。
 円卓に席は四つ、だが今は二人しか座って居ない。

「アドベルト……。貴方こそ珍しいわねここに顔を出すなんて」
「まあ、フェイド様が戻ってきているというからな、そりゃ一目見ないと」

 アドベルトは髭を擦りながら、ニヤニヤと顔を緩める。

「さすがフェイド様信者。気持ち悪いわよ」
「あらら、相変わらずツンツンしてるねえ。美人が台無しだぜ。……それより、どうだったんだ、例の魔剣は」
「…………」

 少し顔をしかめるリディアに、アドベルトはハハンとにやける。

「あの戦闘狂のリディアがねえ。殺人何かに精を出してるから本筋を見誤るんじゃねえか?」
 
 へらへらと笑うアドベルト。
 しかし、リディアは淡々としている。いつものことなのだ。

「で、一体どんな奴だったんだ? 仮にも“腐食”を負かすような奴だ、少し気になるな」
「剣技がかなりの物だったわ。魔術は使えないようだったけれど、それでもおつりがくるわ」
「剣技?」
 
 アドベルトは顔をしかめる。
 魔術全盛の時代、剣を売りにしている人間など限られている。

「この国で剣技って言ったら……ヴァレンタインか? それ以外あまり思いつかないな」
「違うわよ。ただ、剣聖に引き分けたと聞いたわ」
「はあ!?」

 アドベルトが身を乗り出す。
 この国で剣聖と引き分けたというのは、誰が聞いてもこういう反応をする。

「どんな化物だよ……」
「子供よ、まだね」
「……からかってんのか?」

 しかし、リディアはさあねと肩を竦める。

「あれは、私達の障害になるわよ」
「お前にそこまで言わせるか。俺が戦ったらどうなる?」

 アドベルトは眉を上げ、リディアの顔を覗き込む。

「……どうかしらね。私と戦うよりは、あなたとの方が相性が悪いかも」
「ふうん、あのリディアがそこまで素直に俺を認めるほどの奴か。気になるな」
「どうせあなたは魔剣に興味が無いでしょう。まったく」
「フェイド様の指示ならやぶさかじゃないさ」
「どうでしょうね。それで、他の二人は?」

 アドベルトは肩を竦める。

「まったく、あの盗賊はともかくおじいちゃんまで居ないのはどういうことかしら」
「それぞれ頑張ってんのさ、フェイド様の為にな。それに、フラフラと魔剣狩りしてるお前にはあいつらも言われたくないだろうさ。ここに来るも久しぶりだろ?」
「私はいいのよ。結果を出しているから」

 強気のリディアに、アドベルトはやれやれと肩を竦める。

 すると、奥の部屋から不意に足音がする。

 その音を聞き、二人は慌てて立ち上がると頭を下げる。
 反射的に染み付いた行動。それだけ、この奥から来る人物に二人は頭が上がらないのだ。

 遅れて、ゆっくりと奥から姿を現したのは仮面をつけた人物だった。

 不思議な雰囲気を纏っていた。
 決して体格が良い訳ではないのに、持っているオーラが、その存在感を際立たせている。

 空気が変わる、とはこのことを言うのだろう。

 仮面の男は円卓ではなく、少し離れた玉座のような椅子に座ると、脚を組む。
 漆黒の剣を傍らに置き、頬杖をつく。

 そして、一言。

「さて、魔王教団の会議を始めようか」