ジェネラルオークは、ゆっくりと間合いを詰めてくる。
 俺は、刀をしっかりと握り直す。

「……っ!」

 今までに感じたことのない圧。
 これが、ジェネラルオーク……!

 ただの魔物じゃない。この迷宮(ダンジョン)で多くの敵を返り討ちにしてきた、百戦錬磨の魔物だ。

『そうよ、ホロウ。いい? 相手は戦い慣れているわ。生まれ持った能力だけだった今までの魔物とは訳が違うわ』
「うん、そうみたいだ。落ち着いて戦う……!」
『その意気よ! やっちゃえホロウ!』

 元気よく背中を押された感じがして、俺はぐっと気合を入れなおす。

 ジェネラルオークは、ゆっくりと近づいてきながらもこちらの出方を伺っている。
 だったら、まずは挨拶代わり――!

「“三閃”!」

 ジェネラルオークを覆い囲むように、三本の剣閃が襲い掛かる。
 これなら確実にダメージは入る! 

 ――しかし。

「グオアアアアアア!!」

 ジェネラルオークは地面を思い切り斧で抉ると、岩や土を思い切りこちらに投げつけてくる。

「なっ!?」

 岩は俺の斬撃にぶつかると、その勢いを殺す。
 勢いの落ちた三閃はジェネラルオークの皮膚に弾かれると、その隙に一気にジェネラルオークが身体を入れてくる。

「こいつ……!」

 予想以上に戦い慣れてる……!!

 そうだ、今まで討伐してきた魔物たち。確かに強かったけど、人間と戦うときのような駆け引きのようなものはなかった。

 でも、こいつには思考がある……! 戦闘の概念が……!

『ホロウ、気を付けて……!』
「うん……!」

 迂闊な攻撃はできない。きっと、今までのように攻撃するとこいつには受け止められてしまう。

 どうする――

「グアアアアア!!」

 瞬間、俺の攻撃が止まったことを見逃さず、ジェネラルオークは一気に俺に突撃してくる。

 振りかぶった巨大な斧が、思い切り振り下ろされる。

「ふっ!」

 俺は刀を横に構え、振り下ろされた斧を受け止める。
 ドシンっ! と重い衝撃が手、肩、腰、脚へと電撃のように一気に流れる。

「ぐっ……こいつ……パワーが……!」

 攻撃が重く、地面に脚が埋まりそうになる。
 素のパワーは俺以上だ……!

 さすがにこれを無尽蔵に打ち込まれると、一気に破壊される。
 守りは不利だ……!

 だが、ひるんだ俺を見逃さず、ジェネラルオークは斧を握っていた片方の手を離すと、思い切り振りかぶる。

 ――平手打ち――!

「ッ!」

 俺は咄嗟に雪羅を抜くと、ジェネラルオークの脇腹に向けて振る。

 ジェネラルオークは俺の攻撃を察知すると、攻撃の手を緩め距離をとる。

 俺の振りぬいた雪羅が、空を切る。

 こいつ……剣士との戦いにも慣れている。
 遠距離攻撃の可能性が低いことを読んでるんだ。このまま戦いを続ければ、俺が魔術を使えないことまで察してしまうかもしれない。そうなれば、俺が圧倒的に不利だ。

『相手にとって不足はないわね、ホロウ』

 いつも通りのカスミの声が頭に響く。
 この声が聞こえると、落ち着ける。

「……そうだね。確かに今まで戦ってきた相手より明らかに素の力が高い。間違いなく強敵だよ」
『ええ。でも、思い出して私との特訓を。純粋な剣での勝負。それなら、ホロウが負けるわけないわ!!』

 カスミのどや顔が頭に浮かぶ。
 俺は静かに頷く。

「任せといてよ……!」

 俺はカスミを構えると、スッと全身の力を抜く。
 落ち着けば、勝てる相手だ。

 少しの膠着状態。
 遠く、小部屋の方から魔術の放たれる音と、オークの叫び声が聞こえる。

 そして。

「グオオアアアアア!!」

 痺れを切らしたジェネラルオークがこちらに駆け出す。
 恐らく、奥のオークの叫び声から状況を察したのだろう。リーズたちが押してるんだ。

「来い!」

 ジェネラルオークはさっきと同じように土砂の弾幕を張る。
 襲い掛かる岩や土を、俺は完全に見切って全て叩き切る。

 その一瞬の視界の隙から、ジェネラルオークは一気にこちらに飛び掛かる。

「ふっ……!」

 それを僅かな動きで避けると、開いた首元に刀を滑らせる。
 だが、ジェネラルオークもそれを斧で受け止める。

 そこから、一気に俺の連撃が始まる。

 パワーで負けているなら、スピードで勝つ!
 その重い斧ならついてこれないだろ!

 斧と刀が弾ける甲高い音が迷宮(ダンジョン)に響き渡る。

 徐々に刀がジェネラルオークの皮膚にかすり始める。
 重い斧では俺の刀のスピードについてこれない。

 しかし、きっと今までもそれだけの攻撃をしてきた剣士はいたはずだ。
 だが、ジェネラルオークの皮膚は鋼のように固い。傷をつけることは難しい。

 ――けど。

「グ――ウオオオオアアアアア!!!」

 ジェネラルオークの悲鳴。
 皮膚からは、赤黒い血が流れる。

「カスミなら傷をつけられる!!」

 ラストスパートだ……!